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FRBのイエレン議長による記者会見-Homework

2014年05月01日

はじめに

今回のFOMCは、経済見通しの改訂を行うものでなく、従ってイエレン議長の記者会見も行われない。また、本文でみるように、発表された声明文も、フォワードガイダンスを変更した前回会合(3月18日~19日)からほとんどど変っていない。ただし、FOMCの議論が無風であったはずもなく、いくつかの宿題に取り組んだことが推察される。

本コラムでは、これらの点も含めて検討することで、次回(6月17日~18日)に向けた予習をしておくこととしたい。

経済見通し

今回の声明文における経済情勢判断が前回と異なるのは、(1)冬季の異常な寒波によって経済活動が急速に鈍化したが、足許では回復したと評価していること、(2)設備投資が(拡大でなく)鈍化したと評価していること、の2点のみである。前日に公表された第1四半期のGDP成長率が、年率でわずか+0.1%に止まった後であるだけに、FRBが(1)において経済活動の落ち込みが一時的と示唆したことの意味合いは決して小さくない。

ただ、あえて留意すべき点を指摘しておくと、今回のGDP成長率の減速にとっては、FRBが(2)において指摘した設備投資の減少だけでなく、純輸出(なかでも輸出)の減少による面も大きかった(年率の寄与度は-0.83%)。FOMCメンバーが、その理由を相手国側の一時的要因といったテクニカルな問題と捉えているのか、それとも景気回復の遅延といった実体的な問題と捉えているのかを、次に公表される議事概要で確認することも必要であろう。

いずれにせよ、今回の経済情勢判断は前回とほとんど不変であるので、FOMCは、市場予想の通り、資産買入れ額をさらに100億ドル削減し、今月からは1ヶ月当たり450億ドル(MBSが200億ドル、米国債が250億ドル)とすることを決定した訳である。

テーパリングから金利政策への移行

FOMCメンバーにとって、ここまでは比較的やさしい仕事であろうが、今後を展望した場合に宿題が残っていることも明らかである。

このうち、資産買入れの減額(テーパリング)の条件や進め方について透明性を高めるべきかどうかという点については、少なくともFRBにとって重要性がかなり低下したことが推察される。なぜなら、テーパリングの開始-あるいは開始のための議論-の際にみられたようなボラティリティの上昇が観察されなくなったからである。実際、米国の市場では、FOMCによるテーパリングの一段の進捗もほとんど材料視されなかったようである。

この点は、FOMCにとっては地味であるが意味のある勝利と言える。つまり、テーパリングの開始当初に市場が要求していた条件の明確化は、資産買入れの効果を定量的に示すことが困難である以上、そもそも難しい課題であった訳である。そういう無理難題に敢えて挑戦して困難な局面に陥ることなく、労働市場を中心とする経済情勢のsubstantialな好転というFOMCによる定性的な評価さえあれば、テーパリングは毎回100億ドルづつ進むことを市場に織り込ませることができたからである。

ただし、果たしてこうしたアプローチを金利政策への移行に関しても採用しうるかどうかには不透明性が残っている。

実際、FOMCは、前回会合でフォワードガイダンスを実質的に放棄し、資産買入れが終了しても相当期間にわたって超低金利政策を継続するという説明に置き換えた訳であり、この表現は今回の声明文でも維持されている。しかし、前回会合直後の記者会見でのイエレン議長の発言が「相当期間とは6カ月」と報道されたことが、FOMCメンバーによる政策金利見通しとの整合性を含めて、市場にとってサプライズとなったことは記憶に新しい。しかも、イエレン議長が-その意図は措くとしても-その後に行った講演(特に3月31日)で、労働市場の回復に対するFRBの役割を強調したことで、市場では資産買入れの終了後も早期に利上げに移行する可能性は低いという逆方向の見方が台頭することとなった訳である。

もちろん、FRBにとって、このように市場との関係をいわば「押したり引いたり」しながら、自ら想定する利上げのパスを徐々に織り込ませる選択肢は存在するし、テーパリングでの「成功体験」もある。

それでも、米国内に少なからず異論があった資産買入れの停止と、より多くの経済主体に直接的な影響の生じうる政策金利の引き上げとは、レベルの異なる意思決定となることも考えられる。足許で、住宅市場の回復に鈍化の兆しがみられることも、政策金利の引き上げに対する抵抗を強める効果を持つかもしれない。それだけに、特に最初の利上げについてはFRBとしても、最大限円滑な形で実施したいと考えることには合理性がある。

そこで、FRBとして手を尽くすという意味で、利上げの開始ないしは継続について何らかの条件を明示する、つまり、フォワードガイダンスを装いも新たに復活させる選択肢もあろう。その場合も、FRBがいわゆるデュアル・マンデートの下にある以上、労働市場の改善状況を条件に含むことは避けにくいが、失業率に過度なウエイトを置くことは避けうるし、現在の声明文が既に盛り込んでいるように、インフレ率との”balanced approach”も必要となろう。

その場合の条件の置き方如何では、FOMCメンバーによる政策金利の予想パスの公表との関係も改めて論点になるかもしれない。現状では、これはあくまで予想であるが、しかしFOMCメンバーが自らの経済予測に照らして最適な政策金利のパスを示したものである。

FRBは4/29日、つまり今回のFOMCの初日の午前中に議長と理事(合計4名)のみによる非公開理事会を開催した。会議の実施自体はFRBのHPでも公示されているが、興味深いことにその議題は”Medium-term monetary policy issues”である。米国内の報道によれば、非公開理事会の開催自体は非常に稀という訳ではないが、過去には、本稿でも以前に触れた”Exit strategy principle”のレビューに関わったとの指摘もみられるだけに注意することも必要であろう。

おわりに

次回(6月)のFOMCを展望すると、FRBにはもう一つ悩ましい問題がある。それは、副議長と理事の欠員問題である。既に3人の欠員が生じている上に、スタイン理事は5月末での退任を表明している。一方、議会の上院銀行委員会は、オバマ大統領が選任したフィッシャー副議長候補と理事候補のブレイナード氏およびパウエル氏を承認し、上院本会議での承認を残すのみとなったが日程は不透明とされている。議長と理事2名という異常な状態でもFOMCを開催することに制約はないが、もしここで重要な意思決定をしようとすれば、地区連銀総裁の影響力がそれだけ増すことになる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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