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FRBのイエレン議長による記者会見-qualitative

2014年03月20日

はじめに

今回のFOMCは、市場の予想通りに「QE3」の規模を来月からさらに100億ドル減額することを決定したことに加えて、焦点となっていたフォワードガイダンスを抽象的なもの-市場の表現を使うと「qualitativeなもの」-へと変更した。

その意味合いについて、イエレン議長にとっての最初の定例会見の内容を踏まえつつ検討することとしたい。

経済見通し

今回の声明文のうちで経済情勢判断の部分は、この冬の異常な寒波が経済指標に影響していることを認めつつも、労働や住宅、設備投資の状況や財政の影響など主要な部分に関して、イエレン議長が記者会見で強調したように、基本的には変わっていない。加えて、今回定例の見直しが行われた経済見通しについても、GDP見通しのレンジの上限が2016年にかけて若干引き下げられた一方、失業率の見通しがわずかに下方修正された程度で、昨年12月のシナリオが概ね維持されている。なお、現在の国際金融市場の焦点である新興国問題については、声明文では触れられなかったほか、イエレン議長は記者に対する回答の中で、情勢を注視していくとした上で、米国の金融機関によるロシアを含むエクスポージャーは小さいとし、金融システム面での問題にはなり難いとの解釈を示した。

これらの点からみると、FOMC声明文の発表後に株価が軟調になり、長期金利やドル相場が上昇方向に動いたことをFRBによる経済見通しとの関連で説明することは難しいように感じられる。

「QE3」の運営

今回の本題であるフォワードガイダンスに進む前に、「QE3」の今後の運営について確認しておきたい。今回の100億ドルの減額の背景としてFOMC声明文が指摘したことは、前回(1月)と同じであり、最大雇用の実現に向けたこれまでの動きと労働市場の先行き見通しが、さらなる「QE3」の減額を判断するのに十分な内容であったということである。

この点に関しては、今回の記者会見でも若干の議論があった。例えば、ニューヨーク・タイムズの記者が、ニューヨーク連銀のダドリー総裁によるコメントを引用しつつ、現状のペースで「QE3」の減額を続けるための条件を明確化するよう求めたのに対し、イエレン議長は、最大雇用に向かっての労働市場の改善が続くことに加えて、インフレ率が目標に対して十分低い状況が続くことを挙げ、声明文で強調されている雇用と物価のbalanced approachの重要さを示唆した。

このことを上記のような経済見通し-特にcore PCEインフレ率の2014年見通しは1.4~1.6%と目標を十分に下回っている-と考え合わせると、結局のところ、米国の金融経済に余程の予想外のショックが生じない限り、FRBはFOMCごとに淡々と「QE3」の100億ドル減額を続け、本年秋に終了というシナリオが再確認される。

フォワードガイダンスの変更内容

今回のFOMCのポイントであるフォワードガイダンスの変更については、まず、内容を整理することが有用であろう。第一に、フォワードガイダンスに関して雇用の面でthresholdとなっていた6.5%は放棄された。これに代わって登場したのは、現在の低金利政策(FFレートで0~0.25%)をどの程度維持するかは、最大雇用と2%インフレの達成という目標に対する、これまでおよび今後の動きに基づいて判断するという表現である(声明文の第5パラグラフ前半部分)。同時に、こうした判断に際しては、労働市場やインフレ率、金融環境に関する幅広い指標を参照するとも述べている。

第二に、FOMCとしては、「QE3」が終了した後も-インフレ率が目標を下回り、長期のインフレ期待が十分に安定している限り-相当期間にわたって現在の超低金利政策を続けるという表現が加わった。ちなみに、従来は、失業率が6.5%に到達した後も相当期間にわたって現在の超低金利政策を継続するというものであった。

第三に、FOMCが今回フォワードガイダンスを変更したのは、実際の失業率が6.5%に接近したためであり、これまでの金融政策運営の方針を変えるものではないとの説明も加えられた。

フォワードガイダンス変更の意味合い

そこで、各々の変更内容を検討すると、まず、失業率の数字的なthresholdを放棄したことは、イエレン議長が記者会見で示唆したように、6.5%の失業率の下での労働市場の状況が、当初想定されていた内容-イエレン議長が実際に列挙したように、労働参加率や新規求人、長期失業や賃金などの面-と異なるものであったことへの対応として合理的である。

その上で、具体的な数値に変えて最大雇用を持ってきたこともFRBのマンデートに整合的であるし、インフレ率に比べるとFRBとして直接に貢献しえない領域も少なくないこととの折り合いをつけやすい面もあろう。ただ、FRBは最大雇用を失業率で表現した場合には5.2~6.0%になるという解釈を既に示している。このため、上記の変更は、失業率のthresholdを6.5%から5.2~6.0%へ下げたという解釈の余地も生ずる。それでも、prematureな利上げ期待を防止する意図には整合的かもしれないが、実際の失業率が6%に接近する際には再び焦点となりうる。

この点に関しては、「QE3」が終了しても相当期間にわたって超低金利政策を継続するという新たな説明も重要な意味を持つ。言うまでもなく、これも「QE3」の減額過程のなかでprematureな利上げ期待が生じ、結果としてイールドカーブが上方へシフトすることを抑制するための措置である。ただ、失業率を抽象化したのと同じような意味で、「相当期間」の長さは曖昧にされている。実際、ロイターの記者がこの点を取上げたのに対し、イエレン議長は例えば6カ月といった単位であるとしつつ、あくまで労働市場を含む経済情勢に依存すると回答した。

政策金利の先行きを見通す上では、経済見通しの改訂と同時に発表されるFOMCメンバーによる政策金利の予想パスを示すチャート(dot chart)も有用である。しかし、今回分を前回分と比較すると、利上げの焦点となる2015年や2016年に関して、特に低位の見通し部分が若干ながら上方にシフトした。イエレン議長が今回の会見で強調したように、これらはあくまで現時点の予想であり、今後も変動しうる性質のものである。それでも、今回のチャートはFOMCの政策スタンスの(微妙であるが)強気化を示唆しているとも言えるし、冒頭にみた市場の反応もむしろ合理的に見える面がある。

おわりに

日本人のように「時間軸政策」に馴染んだ立場からみると、ここまで抽象的なフォワードガイダンスでは、もはやコミットメントの意味が希薄に感じられるのではないか。しかし、それがフォワードガイダンスの本質なのかもしれない。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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