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FOMCの結果-Further Measured Reduction

2014年01月30日

はじめに

昨年12月のFOMCでは、「QE3」に伴う資産買入れを1月から100億ドル減額することだけが決められ、それ以外は今後の情勢次第とされた訳である。従って、今回のFOMCでの決定は、「QE3」の今後の運営に関する考え方を探る上では、むしろ前回の決定以上に重要な示唆を有する面がある。

そこで、本コラムでは、これら2回の決定が示唆する点に注目しながら、今回のFOMCによる判断の内容を検討したい。

総合判断

FOMCが今回決定したのは、来月から国債とMBSの毎月の買入れペースをさらに各々50億ドルづつ減らすことであり、この結果、毎月の合計の買入れ額は750億ドルから650億ドルへ減少する。

その理由について、今回の声明文は足許の景気判断をさらに前進させたことを示している。つまり、FOMCの前回会合(12月)以降の経済指標は景気回復ペースが最近の数四半期に早まったことを示すとした上で、理由として家計の支出や企業の設備投資が改善した点を挙げた。また、労働市場でも、12月の雇用統計が弱かった点に配慮しつつ、全体として改善を続けているとの理解を示した。

声明文のこうした内容が示唆することは、FOMCが「QE3」の運営を判断する際には、米国の景気動向に幅広く目を配るということである。この点は、普通に考えればごく当たり前である。ただ、FRBが「QE3」を減額する上で、労働市場の顕著な改善を重要な条件として強調していた点を思い起こすと、相応に意味のある論点になる。

つまり、「QE3」の判断基準は、「景気の総合判断」なのか「労働市場の状況」なのかという、市場で昨年来議論されてきた点については、前者と考えるべき証拠が揃い始めたことになる。前回のFOMCに関する本稿でも指摘したように、景気が全体的に回復する中で労働市場の改善が進む限り、どちらでも同じ政策判断を導きうるという意味で、この論点は意味を持たない。しかし、今回のように12月の雇用統計が不芳に終わるといった短期的な乖離が生じた場合に論点として浮上することになり、かつ、今回のFOMCの決定は総合判断の重要性を示唆した訳である。

市場の不安定化

今回の決定を市場の観点からみた場合、おそらくより重要な点は、市場の不安定化に対するFOMCの判断であろう。筆者が今月中旬に米国を訪問した際には、景気動向を前提にする限り「QE3」の更なる減額が合理的という見方が市場で概ね共有されていた。ただ、年初からの米国株の調整に加えて、ここへきて新興国市場の不安定化も加わっただけに、市場では今回の決定について見方が分かれ始めていた訳である。

これに対し、今回のFOMCの声明文では、最近における市場の不安定化について、直接の言及は全くみられなかった。少なくとも本コラムの執筆時点で、米国市場はこの点を快く思っていないように見えるし、本コラムが弊社のHPに掲示される頃には、東京市場も懸念を示しているかもしれない。折悪く、今回は、FOMCによる景気見通しの定例改訂がなく、従ってFRB議長会見は行われないだけに、我々には声明文が無視した理由を知るすべはない。

その上で、推測される点をいくつか挙げておくと、まず、FOMCとしては、年初来の米国株の調整も、最近の新興国市場の不安も、ともに米国ないしグローバルにシステミックな問題ではないと判断していることが考えられる。前者に関しては、FOMCの12月会合の議事要旨が示すように、FOMCメンバーの多くが米国株のバリュエーションについてやや疑問を持っていたことが一つの証左になる。

後者に関してはFOMCからの証拠こそないが、特に強く不安定化している新興国には相応にファンダメンタルな原因がある一方、健全な国まで一蓮托生で不安定化している訳ではない点や、米国の金融システムが全体として、特定の問題国に大きなエクスポージャーを持っている訳ではないといった判断がなされていることが考えられる。

もちろん、これらはあくまで現時点の判断であって、米国や新興国の市場が今後にどう展開しても、FRBとして注意を払わないということではないはずである。それは、FRB自身の金融システム安定に関する責務に反するだけでなく、利上げに至る長い「正常化」プロセスを最初から挫折させることになるからである。

いずれにせよ、筆者は、FRBが市場の不安定化をどう受け止めているかについて、早めにコミュニケーションを充実した方が良いように思っている。おそらく、そのためにイエレン新議長にとって最初の重要なチャンスは、旧ハンフリー・ホーキンズ法に基づく議会証言ということになろう。

Measured reduction

本コラムの継続的な読者は覚えていて下さったかもしれないが、筆者は、12月のFOMCに関する本コラムの副題を「measured reduction」とした。たまたまではあるが、この表現がそのまま今回の声明文に「採用」されている(第3パラグラフ5行目の最後)。

そのように個人的な感慨はさておき、今回の「further measured reaction」は、先にみた総合判断に問題がない限りは、毎回の会合で100億ドルづつ「緩やかに減額」することが基本線であるという印象を与えるものになった。その最大の理由は、比較的短期間に開催された2回のFOMC会合で-この間に得られる経済指標は必ずしも多くないにも拘わらず-続けて減額に踏み切ったことである。しかも、市場の観点からみれば、前節で検討したような不安定化があったにも拘わらずということにもなる。

これらの理由に付け加えるとすれば、FRBからみて、毎回の減額幅をファイン・チューニングすることは政策運営の面で難しい問題を抱え込む点も指摘できる。つまり、バーナンキ議長が強調してきたように、「QE3」の政策効果を定量的に推計することは技術的に難しいだけに、前回は100億ドル減額したのに、今回は50億ドルあるいは200億ドルにするという判断を合理的に行うことは困難である。

そうであれば、FRBは毎回のFOMCで機械的に減額していくと予め宣言してしまえば良いことにもなるが、米国の市場関係者からは、事後的にそうなるとしても、FRBは現時点では柔軟性を留保したいのだろうという指摘をいただいた。今回の市場の不安定化ではそのカードは切られなかったが、一般的に政策当局に求められる慎重さと理解すべきなのであろう。

もっとも、FRBはこうした柔軟性と引換えに、毎回のFOMCでの減額に関する判断について、市場と適切なコミュニケーションをとるという課題を背負っていることも事実である。こうした課題は、今回のように市場が不安定化した局面では、なおさらに難しいものとなる訳である。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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