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FRBのバーナンキ議長の記者会見-Measured Reduction

2013年12月19日

はじめに

FOMCはついに「QE3」による資産買入れの減額を決断した。市場の予想は分かれていたとはいえ、9月に比べると、「QE3の見直しは米国経済の回復を反映したもの」といった冷静な見方も増えていただけに、大きなサプライズとはならないであろう。しかし、今後の政策運営を考える上では新たな注目点を提供する内容であった。

本コラムでは、バーナンキ議長による記者会見での発言も踏まえながら、重要なポイントを検討する。

「QE3」の見直しの理由

FRBは来年1月から、国債とMBSの毎月の買入れペースを各々50億ドルづつ減らすことを決定した。この結果、毎月の合計の買入れ額は750億ドルへと減少する。

その理由は言うまでもなく景気の回復と言うことになるが、実は興味深いことに、今回改訂された経済見通しを9月時点と比較すると、2015年にわたって失業率もGDP成長率も微修正に止まっていることがわかる。

この点を踏まえると、9月に「QE3」の見直しを見送ったのは、様々な意味での不透明性によるものであったという推論が導かれる。つまり、ほぼ同様な経済見通しの下でも異なる政策判断がなされたのは、9月の記者会見でバーナンキ議長が言及したように、労働市場の改善の持続力も、長期金利上昇による実体経済活動への影響も、財政を巡る政治的混乱の影響も、いずれをとっても、9月の時点では読み切れなかったということになる。逆に言えば、FRBとしては、この2カ月の経済指標や政治情勢をみた上で、不透明性が低下したと判断したことが推察される。

その一方で、FOMCの今回の声明文では、「QE3」の見直しの根拠として、雇用の累積的改善と労働市場の見通しの好転が特に強調されている。だとすると、「QE3」の運営に関する判断の基準は、「総合判断」なのか「労働市場」なのかという、9月会合の結果として提起された問題が再び浮上してくる。

概念的には、景気が全体的に貢献する中で労働市場の改善が進む限り、どちらの軸でも同じ政策判断を導きうるので問題ないと言えるかもしれない。しかし、短期的には双方の動きが乖離しうるだけでなく、労働市場に関しても失業率が状況を代表する動きをする保証がない点は既に確認されている。

この点は、単に過去の政策判断の適否という問題ではなく、むしろ、今後の「QE3」の運営という次のポイントにも大きく関わっている。

資産買入れの緩やかな減額

FOMCが今回決めたのは、上にみたように、国債とMBSの買入れペースを落とすことであって、ゼロに向かってどのように運営するかについては、今後のFOMCでの決定に委ねている。

つまり、厳密に言えば、今回の決定は「テーパリング」でなく「reduction」である。もちろん、FOMCの声明文は、米国経済がデュアルマンデートに沿った方向に進むと予想する下で、買入れ額は緩やかに減少するとしているだけに、結果的には「QE3」のテーパリングが行われたことになるのであろう。しかし、この点は単なる修辞学以上の意味を持つ。

それは、FRBが今後の毎回のFOMCで「QE3」の運営に関する判断を繰り返さなければならないことである。FRBも、特に9月以降は「QE3」の減額をいつ始めるべきかを毎回のFOMCで判断しなければならなかったという意味で、今までと変わらないと理解することもできるが、ここで前節でみた政策判断の軸の問題が関係する。

つまり、毎回のFOMCが次の期間の資産買入れ額を考える際の軸が何であるのか、少なくとも現時点では必ずしも明確でないという問題である。バーナンキ議長が本日の記者会見でも再三述べたように、資産買入れはその効果を評価することの難しい政策手段であるとすれば、また、6月会合でバーナンキ議長が説明した「QE3」を半年強の期間をかけてテーパーする計画を思い起こしてみると、今回の決定によって「QE3」が具体的にどう運営されるかについての不透明性はむしろ高まったようにみえる。

FRBが、いわば1回限りの「reduction」だけを決定した背景については、本日の会見でも具体的な議論はなかった。ただ、この結果として、状況によって資産買入れの減額のみならず増額もあるという柔軟性が残された点を考えると、市場へのインパクト-特に長期金利-をコントロールしたいと考えたのかもしれないし、2月以降に議長を引き継ぐイエレン氏に政策の自由度をプレゼントしたのかもしれない。

しかし、こうした判断に伴うコストは、次のポイントで見るようにゼロではないようにみえる。

フォワードガイダンス

筆者は、「QE3」による資産買入れの減額に踏み切る場合、同時にフォワードガイダンスの見直しも行われるものと予想していた。

なぜなら、既に失業率は7%まで低下しており、来年のどこかで6.5%というフォワードガイダンスの基準に達する蓋然性が高まっているからである。先にみた9月時点の議論から明らかなように、FRBは金利が景気を先取りして上昇することを回避したいはずである-だからこそ、フォワードガイダンスが導入されている訳である。実際、今回公表されたFOMCメンバーの予想でも、初回の利上げは2015年が圧倒的多数であるし、政策金利の予想パスの分布も9月時点と大きな変化はない。

しかし、今回のFOMCではフォワードガイダンスの修正は最小限に止められ、声明文の中で、失業率が6.5%を下回っても十分長期に現在の政策金利を維持することが言及されるに止まった。この点は10月会合の議事要旨の中で、失業率のバーを下げることに関する議論が示唆されたことを考えても、やや意外感もある。

いずれにせよ、政策金利に関するフォワードガイダンスと前節でみた「QE3」の「measured reduction」を考え合わせると、今後のFOMCが資産買入れ額を段階的に落としつつも「QE3」が終了しないうちに、失業率が6.5%に接近し、市場が政策金利の引き上げを織り込み始める可能性が生じうることになってしまう。もちろん、そこまで景気回復がしっかりしていれば、資産買入れ額も加速的に減少することになるであろうが、今後の「QE3」の運営にはこの点でも不透明性が生じたと言える。

もしかすると、バーナンキ議長は、フォワードガイダンスの基準に関する自由度もイエレン議長にプレゼントしたのかもしれない。 FRBにとって、政策金利の運営こそが今後の政策の根幹であり、かつフォワードガイダンスの基準はデュアルマンデートとの関係で政策を規定する最も重要な要素だからである。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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