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FOMCを終えて-「QE3」の展望

2013年10月31日

はじめに

財政を巡る政治的混乱だけでなく、雇用に代表される経済指標が軟化していただけに、市場は、今回のFOMCが「QE3」に関して意味のある決定を下すとは予想していなかったし、実際にそのような結果となった。しかも、今回はバーナンキ議長の会見も行われないので、現時点で示された材料は声明文のみである。ただ、前回会合(9月)とほとんど同じ内容の声明文であるにも拘わらず、米国市場には当初はネガティブな反応を示すという動きもみられた。

そこで本コラムでは、今後の「QE3」の運営に関して注意すべき点を中心に検討しておきたい。

声明文とその反応

上記のように、今回の声明文は殆ど前回会合(9月)と同じである。実質的な変更点は、(1)住宅セクターの動向について、強い動きと表現していたのを、回復ペースが鈍化したとしたこと(第1パラグラフ)、(2)金融環境がタイト化を続ければ景気と雇用の回復が鈍化しうるという文自体を削除したこと(第2パラグラフ)の2点だけである。これらの理由も明白であろう。つまり、5月から9月までの金利上昇もあって住宅市場の拡大ペースが鈍化した一方、9月以降は長期金利が反落する中で、株価が(財政問題にも拘わらず)高値圏で推移するなど、金融環境は足許でむしろ緩和方向に変化しているからである。

それでも、米国市場が少なくとも当初はややネガティブな反応を示したことは、市場が「QE3」の現状維持を織り込んでいただけでなく、「QE3」の今後の継続に関するより明確なメッセージを望んでいたことによると考えられる。過去数日には資産買入れの増額もありうるといったコメントも少なからず報道されていたし、少なくともゴールドマンサックスのブランクファインCEOによるテーパリングは来年6月以降というコメントもあって、市場はこの点に関して「強気」方向に傾いていた。それでも、FRBによるある種のアシュアランスを期待していたとすれば、この点は興味深い問題を提起している。

つまり、FRBが追求してきた金融政策の透明性向上との関係である。ご覧のように、FRBはデュアルマンデートを昨年から数値として示し、政策金利に関するフォワードガイダンスと明確に紐付けている。こうした流れの中で、市場が「QE3」に関してもフォワードガイダンスを期待することにはもっともな面もある。前回会合(9月)において、「QE3」に関する予想が外れたことを考えれば、尚更にそうであろう。

FRBも、意図して市場を振り回そうとしている訳ではないであろうし、長期にわたる「正常化」のプロセスを考えれば、最初の一歩となるテーパリングを長期金利の高騰といった反応なしに進めることができることに超したことはない。ただし、FRBにとっての問題は、むしろ技術的な側面にあるように思われる。つまり、バーナンキ議長が前回会合(9月)後の記者会見で説明したように、例えば労働市場をとっても、労働参加率や賃金率などに多様な動きがあり、失業率のみでは改善度合いを語れない難しさに直面している。

この間の財政問題を巡る政治的対立がこうした困難さに拍車をかけたことは明らかであろう。そもそも、労働市場を含む重要指標の公表が遅延しただけでなく、調査自体に問題を生じたため、当面は相応の歪みを含むことが予想される。さらに、企業や家計のマインドの悪化が、経済活動にどの程度影響するかは予見しがたい。

こうした点を考えると、市場が期待する「QE3」に関するフォワードガイダンスの実現は今後も難しいようにみえる。つまり、FRBと市場の双方にとって、「QE3」のテーパリングに関する対話は、はるか先にあるゼロ金利解除よりも難しいという皮肉な事態になっているという訳である。

テーパリングの条件

その上で、今後の「QE3」の運営を考える際に重要な点を改めて整理しておきたい。

第一に、FRBの判断軸は、絶対的な意味での景気の良し悪しというよりも、自らの見通しと対比した、いわば相対的な景気動向である。6月のFOMC後の記者会見でバーナンキ議長が強調したのは、FOMCの当時の見通しに沿って経済が推移すれば、本年後半のどこかでテーパリングを開始することであった。

従って、ポイントは、(1)経済見通しはその後どのように変わったか、(2)実際の景気はどう推移しているか、の2つからなっている。このうち、(1)は12月会合まで待つ必要があるが、既に9月会合の時点で若干の引下げがなされたことに注意すべきであろう。一方、(2)には、当面は先にみた経済統計の問題が影響を与えることになる。フォワードルッキングな判断を重視する通常の金融政策であればまだしも、テーパリングの判断に関しては景気回復の強さの確認というバックワードな視点が強調されていることを考えると、一段と影響は大きくなる。

第二に、財政を巡る政治的な混乱に関しては、あくまでも実体経済にどのような影響が及ぶかという観点で考慮されるという点である。バーナンキ議長が、前回会合(9月)にテーパリングを見送った理由の一つとして挙げたのは、財政政策を巡る不透明性が経済に与える影響であり、政治的混乱の中で金融政策を変更するのは望ましくないといった配慮ではなかった。

この点に関しては、データで確認されつつある企業や家計のマインドの慎重化が、実際に設備投資や消費に反映するリスクもあるので、FRBはこの点を注意深く点検することになろう。他方で、中長期的な財政運営を巡る超党派の委員会等での議論が大きな路線変更を決定しない限り、sequesterの実体経済への影響はある程度予見しうるし、FOMCメンバーによる来年の成長改善見通しの一つの根拠でもあった点を思い出す必要もあろう。

第三に、来年1月末でのバーナンキ議長の退任による政策判断への影響は、先へ行くほど小さくなる可能性である。確かに、これから開催されるイエレン氏の公聴会との関係では、FRBも政策判断を慎重に行う理由もあるように見えるし、急いでテーパリングを始める必要があるほど米国の金融経済が過熱している訳ではないことを考えても尚更にそうであろう。

その上で、一般的には、議長の交代時期に重要な政策変更を行うことは、市場との対話等の面で望ましくないという考え方もあろう。しかし、今回の議長人事はFRBにとって異例な副議長からの昇格である。しかも、イエレン氏はFOMCのサブコミティ等を通じて、現在の政策運営の枠組みにとっての「設計者」でもあるので、こうした一般論もある程度は割引いて考えることができるのではないか。

いずれにせよ、FOMCの12月会合も相当の関心を持ってみることが必要となった。それが、今回の声明文による最も重要なメッセージだったようである。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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