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7月FOMCの議事要旨-9月に向けた予習

2013年08月22日

はじめに

「QE3」の運営については、6月のFOMC後の記者会見と7月の議会証言でバーナンキ議長が示した展望-(1)今年後半には減額に着手、(2)徐々に減らして来年央には停止-として、いわば”done deal”という面がある。しかし、こうした展望もFRBの見通し通りに米国経済が推移することが条件であるだけでなく、この2カ月余りの間に内外金融市場にみられた変化を政策判断にどう取り込むかという課題も生じつつある。そこで、焦点となる9月のFOMCに対する予習として、7月FOMCの議事概要の要点を検討したい。

ポイント1:「QE3」の展望自体を巡る議論

重要なことは、FOMCのほとんどのメンバーが「QE3」に関する上記の展望に同意した点である(7ページ最終パラグラフ以降)。既に配信され始めている海外メディアの報道もこの点を強調しているが、景気が良ければ「QE3」を減額するという考え方はある意味で自明であり、FOMCメンバーが賛成するのも当然といえる。

それでも、このポイントに関して留意すべき点を指摘したい。第一に、FOMCメンバーの殆どは、6月FOMCの際に自ら示した景気見通しの程度に米国経済が回復を辿ることができれば、「QE3」を上記の展望に沿って減額し、停止する上で十分に条件を満たすという判断を示した点である。その見通しを確認すると、2014年にはGDP成長率が3.0~3.5%、失業率が6.5~6.8%、PCEコアインフレ率が1.5~1.8%とされている。米国の潜在成長率を考えればGDP成長率は相応に高いとしても、失業率-その背後にある労働市場全般-が、この程度で十分かという点には、市場や民間エコノミストの間で様々な議論が残ることが考えられる。

第二に、資産買入れの減額を実際に進めていく際に、国債とMBSのバランスをどう考えるかについては、依然として明らかになっていない点である。この点に関しては、FRBによる金融政策の「正常化」の基本方針である”Exit Policy Principle”には、最終着地点として、FRBが適量の国債のみを保有する姿を示している一方、バーナンキ議長は、6月FOMC後の記者会見の中で、MBSは償還まで保有するとも述べている。結果的には”pro rata”になるのかもしれないが、市場の反応を考えると、秋のFOMCに向けて意外に重要な点がオープンになっている。

ポイント2:「QE3」の展望のコミュニケーションを巡る議論

この2ヶ月間の国内外市場の反応を見る限り、また、秋以降に実際に資産買入れの減額を行うことを考えると、むしろこのポイントが重要であるし、議事要旨を見る限り。今回のFOMCで焦点となったことが窺われる。

まず注目されるのは、この間に市場が「QE3」の展望をより良く理解するようになったという判断を、FOMCメンバーが示している点である(例えば、6ページ左段の中盤付近)。しかも、この点に関しては、単に金融政策の先行きに対する市場の見方がFRBの考え方と整合的になったという意味合いに止まらず、投機的なリスクテイクや過度に低いterm-premiumを巻き戻すという意味で、金融システムの安定維持に貢献したというマクロ・プルーデンス的な評価もみられる(6ページ左段の終盤付近)。つまり、これらの点を踏まえ、FOMCメンバーは「QE3」の見直しに関する市場との対話に概ねポジティブな評価を下していることが示唆される。

その上で、コミュニケーションに関して残された課題に関する議論にも注目する必要があろう。第一に、FRBが来年央「QE3」が停止される時点の失業率について7%程度という予想を示していることに、少数のFOMCメンバーが難色を示している点である。議事要旨(6ページ)に示されているように、失業率は労働参加率やパート比率、マクロの労働生産性といった要素にも依存するため、GDP成長率が見通し通りに推移しても、失業率がそれに沿って動くとは限らないだけに、こうした懸念には一定の合理性がある。しかし、FRBが「QE3」見直しを金融緩和の正常化プロセスの一環として位置付け、ゼロ金利解除をデュアルマンデートに紐付けたことを考えれば、こうしたコミュニケーションは避けがたいし、市場との対話の上では必要な要素という面がある。

第二に、「QE3」の展望に関して、現時点でより詳細な条件を開示すべきかどうかについて議論が行われた点である(7ページ右段中盤以降)。結果的に7月のFOMC後に追加的な情報が示されなかった事実が示す通り、議事要旨には、ニュアンスを含めて望ましい情報を伝達する可能性への懐疑論が勝ったことが示されている。それでも、数名のメンバーが、実際に資産買入れの減額を開始する際にはより詳細な内容を示すことが、金融環境の不必要なタイト化といった問題を回避する上で有用と指摘していることを考えると、上記の展望に関しては、経済指標とのより具体的な紐付けの可能性も念頭に置くべきかもしれない。

ポイント3: フォワードガイダンスを巡る議論

上記2つのポイントに比べてやや意外感があったのは、FOMCメンバーがゼロ金利解除の条件を再検討した点である。つまり、議事要旨は、全般的には現行のフォワードガイダンスに支持があった点を強調した上ではあるが、このポイントに関する議論を記述している(8ページ左段序盤付近)。

興味深いことは、緩和効果を強化する方向での議論が目立つ点である。この点に関しては、失業率の目標(6.5%)を引き下げてはどうかという意見や、インフレ率の目標に下限を設けてはどうか-つまり、あるインフレ率を超えない限りは利上げしないと約束する、いわば日銀型コミットメント-という意見が示されている。

こうした議論が提示される背景は、本稿のこれまでの議論から明らかであろう。すなわち、失業率が6.5%になっても、労働市場全体が改善したことにならない可能性が現実のものとなってきたということであろうし、賃金を中心とするディスインフレの継続がFOMCメンバーにとって心地よいものでないということであろう。さらに加えて、長期金利が早いペースで上昇していることへの反応という面もあろう。実際、今回の議事要旨にも、市場が「QE3」の見直しとゼロ金利解除を連続した動きと捉えることへの懸念が示されている。

筆者は、フォワードガイダンスの内容-まだ、導入後1年もたたない訳である-を「柔軟に」変更することは、先行きの政策に対するコミットメントへの信認を損ない、政策効果自体を毀損するという慎重論の方に親近感を覚える。しかし、FOMCにおけるこうした議論は、資産買入れの減額を実際にスタートする際には、フォワードガイダンスの「強化」がいわば抱合せ的に導入される可能性を示唆しているのかもしれない。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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