1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. FOMCを終えて-9月への布石

FOMCを終えて-9月への布石

2013年08月01日

はじめに

今回のFOMCは、経済見通し改訂もなく、従って記者会見も行われず、声明文が公表されただけである。しかも、その内容も、足許の経済指標にやや軟調なものが混在することを映じて、わずかに景気判断が引き下げられたにすぎなかった。しかし実際は、FOMCに先だって様々な憶測が生まれ、その中には政策金利の「正常化」プロセスを含む重要な論点が含まれていた。

そこで本コラムでは、9月のFOMCに対する予習という観点から、今回のFOMCの結果とそれを巡る議論を検討する。

利上げの条件を巡る議論

今回のFOMCに先立つ金融市場での議論において最も興味深かったのは、いわゆる「QE3」のtaperingのあり方と並んで、その後の利上げの条件に焦点が当たった点である。その重要な背景は、6月のFOMCにおいてメンバーが新たに示した経済見通しが比較的強気な内容であったことであろう。なかでも、2014年の失業率見通しの下限がゼロ金利政策の見直し条件である6.5%にかかったことがポイントであることは言うまでもない。

このことが、足許での米国債金利の上昇圧力となっているだけに、市場では、金利上昇によって景気回復を腰折れすることへの懸念がみられるようになった。そのメカニズムとして、資産価格を通じた実体経済への影響が意識されているのはごく自然なことである。なぜなら、低金利が株価と住宅価格を押し上げ、住宅市場を回復させながら、資産効果が個人消費を頑健にしているからである。

FRBにとっても、景気の回復につれて長期金利が上昇すること自体を抑制することは難しいが、景気回復の途上なのに長期金利が先走って上昇することは、もちろん避けるべき事態である。このため、バーナンキ議長も、失業率が6.5%に達することが自動的な利上げを意味するものではない点を再三強調してきたが、今回のFOMCに向けては、それだけで十分なのかという問いが多くの市場関係者から提示されていた訳である。

この点に関する結論を展望する上で、いくつか重要な点を指摘することができる。第一に、FRBは「非伝統的政策」の効果を強めるためにフォワード・ガイダンスの明確化を積極的に進めてきただけに、その解除が視野に入ったところで条件にファインチューニングを加えようとするのは、一種のtime inconsistencyとも言える問題を含んでいる。

第二に、失業率が6.5%まで低下しても、労働市場は十分に回復したと言えるか、という疑問は相応の説得力を持っている。例えば、労働参加率の低下だけでなく、危機前の水準に回帰しない長期失業や産業別に乖離がみられる雇用創出力、若年層の著しく高い失業率など、米国の労働市場がなお様々な問題を抱えていることは明らかである(これらの点は、「金融市場パネル」第27回会合の議事概要や参考資料も参照されたい)。

第三に、その上で、FRBは労働市場の回復にどこまで責任を持つかについて、必ずしもコンセンサスがない。FRBはいわゆるデュアルマンデートの下にあり、最大雇用の実現に対して明確な責務を負っている一方、昨年、FRBが物価と雇用の中長期目標を具体的に明らかにした際に明言した通り、雇用を左右する条件は、もちろん、金融政策以外に多数存在する。これらの両者を勘案すれば、少なくとも概念的には、FRBの責務は、労働市場の所与の構造条件の下で、最大限の雇用を実現することであると理解できる。しかし、実際は、この間のバーナンキ議長やイェレン副議長の講演等が示唆するように、そもそもどこまでが構造問題の影響なのかを認識すること自体が極めて難しいという問題が存在する。

第四に、FRBにとっては、先にみたような実体経済の回復に相当先行する形での金利上昇を抑える手段は乏しい。いわゆる「QE2」の際の米国債金利の動きを想起すれば明らかなように、景気回復期待による長期金利の上昇圧力が生じた場合は、FRBが如何に多額の国債買入れを続けても、それを抑制することは難しい。実は、このためにFRBが「口先介入」-「正常化」の進め方について、市場をみながら硬軟両様のメッセージをと発すること-を使おうとすることが、上にみたtime inconsistencyの問題にも関わっている。

9月のFOMCに向けた展望

前回の本コラムで議論したように、いわゆる「QE3」の見直しも利上げと同じくデュアルマンデートに照らして判断される訳であり、かつ、2011年以来FOMCで議論されてきた長期にわたる「exit strategy」の一環として位置付けられている以上、「QE3」の見直し自体は、FOMCとしての相当な決意に裏打ちされているものと理解すべきであろう。

もっとも、同時に公表された米国のGDP成長率をみる限り、少なくとも市場の視点からは、「QE3」の縮小が本当に9月に開始されるのかという疑問がむしろ強まることになるかもしれない。

GDPに関するこれまでの報道は、併せて実施された大規模な見直しに伴って、金融危機当時の景気後退がこれまでの理解よりも小さく、かつ、その後の回復もより速かったといった点に焦点を当てている。しかし、肝心の足許をみると、第2四半期が1.7%成長となり、第1四半期も1.1%に下方修正されるなど、潜在成長率とされる2%台前半を大きく下回ったことが注目される(もちろん、潜在成長率自体も変わるかもしれないが。。。)。

もちろん、「正常化」に限らず金融政策は、過去ではなく先行きの経済や物価を見ながら運営するものではあるが、FOMCメンバーが今年前半のGDP成長率を踏まえた上で、9月に改訂する見通しの中で今後に対してどれだけ強気な見方を維持しうるのかという点が一段と重要になったように見える。

その上で、先に述べたように、その先の利上げの条件をどうするのかという点も劣らず重要となった。FRBが、長期金利の上昇に対する懸念に配慮したり、労働市場の本質的な回復を確保しようするのであれば、利上げ条件のハードルを事実上引き上げるという選択肢が存在する。直接的には、失業率の水準をさらに下げるとか、レンジにして幅を持たせることが考えられるし、間接的にはインフレ率の上限をさらに柔軟なものにするといった手段も考えられる。

前項の第三の点として述べたように、FRBには、最大雇用に関する責務を再定義しつつ、金融政策で対応しうる循環的な部分を対象とした目標に置き換えるという、全く別な選択肢も存在するし、おそらく長い目で見るとFRBにとって望ましい選択肢でもあるように思える。しかし、既に述べたような技術的な困難さだけでなく、FRB議長の後任人事の本格化や現政権の内政面の現状などを考えると、かなりハードルの高い課題であるようにみえる。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

この執筆者の他の記事

井上哲也の他の記事一覧

このページを見た人はこんなページも見ています