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バーナンキ議長の記者会見-終わりの始まり

2013年06月20日

はじめに

今回のFOMCの焦点が、当面の金融経済情勢よりも、FRBによる金融緩和政策-なかでも「QE3」-の今後の運営をどう考え、それをどう伝えるかの方にあったことは言うまでもない。ただ、FOMCの各メンバーが発信してきた意見のばらつきなどを踏まえると、今回の会合である程度具体的な方針が示されたことは、若干のサプライズと受け止められる可能性があろう。

そこで、本コラムでは「QE3」の今後の運営を中心に、記者会見で示された主な論点を検討することとしたい。

Moderate the pace

バーナンキ議長は、記者会見の冒頭説明において、FOMCによる経済見通しが正しければ、今年後半に資産買入れのペースを減速させ始め、来年中盤には終了することになると明言し、終了時点の失業率は7%近辺になるとの見方を併せて示した。

その前提となる経済見通しの改訂値をみると、来年は、失業率が6.5~6.8%、GDP成長率が3.0~3.5%とされた。これらは、3月時点(失業率が6.7~7.0%、GDP成長率が2.9~3.4%)と比べて各々上方修正されているが、改善幅は決して大きなものでない。ただし、失業率の下限が、ゼロ金利政策の見直し条件である6.5%にかかったことは注目される。

こうした説明から少なくとも明らかになったのは、FRBが、「QE3」の今後の運営を、あくまでも米国の経済情勢に基づいて判断するという点である。併せて、声明文の最後の文に注目すれば、そうした判断はFRBのデュアルマンデートに主として照らして行われることも確認された訳である。

実体経済面での意味合い

これらはごく当たり前に過ぎないように見えるが、いくつか重要な意味合いを有している。まずは、「QE3」の見直しがゼロ金利政策の見直しと一体として位置付けられている点が確認されたことである。それは、ゼロ金利政策の運営だけでなく、「QE3」の運営もデュアルマンデートに照らして行われることが確認されたからである。

この点は、バーナンキ議長が今回の記者会見でも言及したように、FOMCの5月会合でレビューされた”Exit Strategy Principles”(オリジナルは2011年6月会合の議事要旨内で説明されている)に沿った考え方であって、必ずしも新しい話ではないが、エコノミストや市場関係者の間で議論があっただけに、有用な情報である。

ただ、これで「QE3」の運営の考え方に関する不透明性が払拭された訳ではない。まず、インフレ率の低下をどう考えるかという問題がある。実際、今回改定された来年のPCE Coreのインフレ率の見通しは1.5~1.8%と、前回見通し(1.7~2.0%)に比べて引き下げられ、記者会見でも複数の質問がこの点に言及した。

これに対するバーナンキ議長の反応は、インフレ期待が2%近辺で安定している限り大丈夫というものであり、上記のように経済見通し通りに行けば、FRBは「QE3」の減額に着手する。しかし、経済成長率が今年(2.3~2.6%)に比べて大きく加速するのに、インフレ率の上昇が抑制されることをどう理解すべきかについては、FOMCでもなお様々な議論が行われる可能性も残る。

もちろん、労働市場の改善をどう評価するかもポイントである。今回の記者会見でも、バーナンキ議長は失業率だけでなく多様な指標をみることの重要性を強調し、労働参加率や長期失業の問題に言及した。その一方で、上記のように「QE3」が終了する際の失業率として7%という目途を示した訳である。従って、この点も今後のFOMCにおける論点となる可能性が残る。

金融市場への視点

実体経済に勝るとも劣らぬ重要性を持つのが金融市場との関係である。このところ米国市場のみならず国際金融市場のボラティリティが高まっている最大の理由は、「QE3」の今後の運営に関して様々な思惑が生じたことにあり、この点自体は、バーナンキ議長も今回の記者会見の中で認めている。

ただ、先に述べたように、FRBは「QE3」の運営-あるいは金融緩和政策全体の運営-をあくまで米国の実体経済との関係で判断していることに注意する必要がある。実際、バーナンキ議長も、今回の記者会見の中では、「QE3」終了の思惑によって長期金利が強含んでいる点に関しては、金融環境への影響-そこには住宅市場への影響も当然含まれる-ないし家計への資産効果への影響といった経路に着目することを示唆している。

また、バーナンキ議長は、「QE3」の減額がアプリオリに決まっている訳でなく、今後の経済動向によって決まることを再三にわたって強調した。この点は、金融市場に対する「口先介入」という意味合いだけでなく、FRBが「QE3」の減額を実際に進める場合には、FRBが米国経済の先行きに自信を持っていることを意味する点を示唆することで、金融市場に冷静な対応を求める意味合いも含まれている。

さらに、新興国市場でこのところボラティリティが高まっていることについても、バーナンキ議長は、各国と密接に連携しつつ注意を払っているとしつつも、米国経済が健全に回復することは新興国にとっても良いことであるはずという考え方を示した。

金融システム面での意味合い

これらの議論自体はもっともであるし、正面から反論することは難しい。それでも、実体経済面と同じく、いくつか議論の残る点を挙げることは可能である。

第一に、FRBによる長期金利のコントロールである。バーナンキ議長が今回も強調したように、FRBとしてはバランスシートに大量の国債を抱えることが長期金利に対する低下圧力を生むという考え方(”stock view”)に立っている。だとすれば、たとえ「QE3」の減額に着手しても、FRBによる国債保有額はさらに増え続けるにもかかわらず、「QE3」見直しの思惑が生じただけで米国債利回りが上昇していることをどう理解するかという問題がある。

これは、stock viewの適否といった問題ではなく、「QE3」の減額過程でFRBの想定以上に長期金利が上昇すると、実体経済に予想以上のコストを生じさせるだけに、金融緩和政策の全体の運営に関わる可能性がある。バーナンキ議長は市場との対話の重要性を指摘したが、それだけで十分かという疑問は残るであろう。

第二に、FRBによる金融政策の国際的な波及である。新興国の視点に立てば、「QE3」の運営と見直しによって資本流入と流出の双方の圧力にさらされたことになり、不満は当然大きいであろう。この問題は、そもそも、米国と言う特定国の通貨が国際通貨になっていることに関わる面が大きいし、FOMCとは別な場所であろうが、再び様々な議論が行われることになるのであろう。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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