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ライツ・オファリングは定着するか

2012年10月23日

現在、大阪証券取引所(以下「大証」という)ジャスダック市場に株式を上場するエー・ディー・ワークス(以下「ADW」という)によるライツ・オファリングが進行中である。ライツ・オファリングとは、譲渡可能な新株予約権を既存の株主に無償で割り当てるというもので、イギリスを始めとするヨーロッパ諸国では一般的な増資手法である。日本では、これまで2010年3月から5月にかけて実施されたタカラレーベンによるものが唯一の例であり、ADWによるライツ・オファリングは、史上2例目ということになる。

同社は、さる10月1日、自己株式として保有する株式を除くすべての株式保有者に対して、1株当たり新株1株を取得することができる新株予約権(ライツ)を無償で割り当てることを決定し、10月17日に当該割当を実施し、ライツを大証市場に上場した。ADWのライツは12月7日まで大証市場で取引され、12月14日まで行使可能である。

上場企業による増資の手法は、(1)既存株主が新株を引き受ける株主割当て、(2)特定の法人・個人が新株を引き受ける第三者割当て、(3)広く一般投資家に新株を販売する公募、の三つに大別できる。かつての日本市場では、株主割当てが最も一般的な増資手法だったが、割当てを受けた株主が払込みに応じることを事前に保障できないことに加え、株価が上昇しても少ない株式数で多額の資金を調達することが難しいことなどから、1970年代以降、代表的な増資手法としての地位を公募増資に取って代わられることになった。また、第三者割当て増資は、事業提携等に際しての出資などに広く利用されている。

ところが、近年、第三者割当てをめぐっては、既存株主の持ち分権を著しく希釈化したり、支配株主の異動を伴ったりするケースが相次いだことが問題視され、2009年8月以降、取引所ルールによる規制が強化されている。また、公募増資についても、既存株主の持ち分権希釈化や増資に伴う株価の下落が問題視されるとともに、2010年に行われた複数の大規模増資をめぐるインサイダー取引が摘発され、ファイナンス手法としてのイメージ低下につながった。とりわけ、既存株主による優先的新株引受権が会社法で保障されているイギリスや一定規模以上の第三者割当てに株主総会の承認が求められているアメリカなど、海外の機関投資家は、日本の増資をめぐる慣行が株主の権利を尊重していないとして批判を強めた。

そこで、株主にライツを割り当てることで株主の権利を尊重すると同時に、ライツを譲渡可能とすることで払込みを望まない株主にも一定の資金回収の機会を与え、行使されなかったライツを一括取得して証券会社等が行使するコミットメントを付ければ資金調達額も確定できるライツ・オファリングが、新たな増資手法として注目されるようになってきたのである。

当局や取引所も株主の理解を得やすい増資手法としてのライツ・オファリングに強い関心を示しており、2009年以降、その円滑な実施を困難にしているとみられる様々な規制や基準に係る見直しを相次いで実施してきた。

もっとも、冒頭で述べたように、これまでのところ、日本の上場企業が実施したライツ・オファリングは、現在進行中のものを含め、わずか2件に過ぎない。

今後、ライツ・オファリングが上場企業の一般的な増資手法として定着していく上で、一つの鍵となりそうなのが、証券会社等によるコミットメントの付与である。これまでの2件は、どちらもコミットメントを伴わないノン・コミットメント型ライツ・オファリングとして実施された。

史上初の試みとなったタカラレーベンのケースでは、新株予約権の行使比率は95.7%と高く、しかも株主数が実施直前期末の7179人から実施後の期末には7718人に増加し、筆頭株主である社長の持株比率が約35%から約25%に低下するなど、資金調達と株主構成の多様化という狙いをコミットメント無しに達成できたとみることもできる。とはいえ、ノン・コミットメント型では、とりわけ大規模な資金調達が行われる場合、安定的な調達の実現への不安が残ることは否定できない。

ちなみに、現在ライツ・オファリングを実施しているADWは、コミットメント型を採用しなかった理由の一つとして、同社が議決権割合の20%以上の取得を目的とする大規模買付者に対して一定の情報提供を求めるといった事前警告型買収防衛策を導入しているにもかかわらず、コミットメントを行った証券会社等の金融機関が結果として大規模買付者に該当したり、大規模買付者に該当する者への一括譲渡を行ったりする可能性があるという事情を掲げている。仮に、こうした論理が多くの企業によって共有されるのであれば、2012年7月末時点で上場企業514社(全体の14.5%)が買収防衛策を導入し、そのほとんどがADWのものと同じような事前警告型の防衛策であるという事実(三井住友信託銀行調べ)を踏まえる限り、コミットメント型ライツ・オファリングの実施を躊躇する企業は少なくないということになろう。

コミットメント型ライツ・オファリングの実施を難しくするもう一つの、より根本的な要因は、ライツ・オファリングによる資金調達に要する期間が、ライツの市場での流通を前提とする限り公募増資等に比べて長くならざるを得ず、それだけ長期間の価格変動リスクを引き受けることに対して証券会社等が消極的になりやすく、かつ高い手数料が要求されることで高コストの資金調達方法になりやすいということである。この点は、ライツ・オファリングが一般的な増資手法であるイギリスにおいても、2007年から08年にかけての金融危機以降大きな問題となっており、必ずしも解決策を見出せないままになっている。

タカラレーベンのライツ・オファリングが一定の成功を収めたことは、中堅規模の上場企業であれば、ノン・コミットメント型であっても、ある程度安定した資金調達を実現できるということの証なのかも知れない。ADWのケースは、この仮説の試金石となるわけだが、仮に2例目も成功と評価されることになれば、ライツ・オファリングは、ノン・コミットメント型のまま、それほど規模の大きくない上場企業の資金調達に活用されるという「日本型」とも言うべき形で定着していくことになるのかも知れない。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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