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今回のFOMCの結果を考える-緩和バイアス

2012年08月02日

はじめに

今回のFOMCは、市場のコンセンサス通りにNo-actionであった。また、経済見通しや政策金利の予想パスについての定例見直しの機会でなかったので、バーナンキ議長による記者会見も行われない。それでも、足許の経済指標が景気減速を示唆しているだけでなく、国内外の先行きに大きな不透明性があるだけに、次回(9月)会合での緩和期待は強いので、本稿では今後の展望との関係でポイントを確認しておきたい。

ポイント1:米国経済の状況

FOMC声明文は、米国の景気回復が本年前半を通じて減速したとしている。なかでも、雇用や個人消費の拡大が緩やかになっていることを指摘したほか、住宅市場では改善が続いているものの、依然として状況は厳しいという認識を示している。さらに、原油とガソリンの価格低下により、インフレの抑制傾向も本年前半の特徴であったと指摘している。

先行きに関する評価は、前回のFOMC声明文と概ね同じであり、欧州情勢を背景とする国際金融システムの不安定化が米国にも大きなリスクである中で、Dual Mandateについては、雇用の改善ペースは引続き緩やかに止まる上に、インフレ率も"goal"を当面は下回り続けるとの見通しを確認している。

これらを並べてみれば、一部の市場参加者が期待していたように、追加緩和の条件が揃っている面もある。これに対して、今回は現状維持となった理由について、主として実体経済との関連で考えてみると、第一に、現状は近年に追加緩和に踏み切った時点よりは、少なくとも「まし」ということである。例えば、バーナンキ議長がいわゆるQE2の方針を表明した一昨年の夏は、失業率も10%台前半であったし、設備稼働率も70台をようやく回復した状況にあった。

第二に、米国にとっての懸念は、むしろ先行きのダウンサイド・リスクにある。米国の場合、欧州情勢が悪化した場合の波及効果だけでなく、いわゆる fiscal cliffの影響という大きな不透明性を抱えている。今回の声明文では明示的に触れられなかったが、議会証言で論点となったように、FRBとしても後者の要素が個人消費や設備投資、雇用などを慎重化している可能性を認めている。このように先行きに明らかな不安がある場合、予防的な金融緩和を行うとの判断もありうるが、ダウンサイド・リスクを構成するこれら二つの要素は余りにも不確実性が高いし、欧州の政策と米国の財政政策とがそれぞれ直接に対応すべき筋合いの問題でもある。

それでも、FRBとしては何らかの政策対応を採るべきと考えたとしても、今度は政策手段に関する課題が待ち構える。次節でこの点を考えることにしよう。

ポイント2:FRBの政策手段

今回のFOMCがNo-actionであったとしても、FRBは強力な金融緩和を続けている。つまり、前回のFOMCで期間を延長したツイスト・オペを粛々と実行しているし、2014年後半まで現在の超緩和政策を継続すると「予想される」というメッセージを通じた時間軸政策も展開している訳である。これらを維持するだけでなく、実体経済の先行きに関する不確実性に対応しながら、家計や企業のセンチメントを安定させる政策手段が残されているかどうかを考えてみても、現時点で有効なものはなかなか見当たらない。

市場では、今回のFOMCでなくても年末まで展望すれば、FRBがいわゆるQE3といった大規模な資産買い入れに再び踏み切るのではないかという見方も根強いように見える。しかし、この点に関しても、いくつかの慎重論を挙げることができる。

第一に、長期金利が既に極めて低い水準にあることである。FRBがいわゆるQE2の目的として掲げた長期金利の抑制は、現在続いているツイスト・オペの効果だけでなく、インフレの落ち着きや欧州情勢の不安定化にもサポートされて、皮肉にも十分に達成されている。また、長期金利の抑制の目的の一つが住宅市場の安定化であるとしても、少なくとも前回のFOMCにおける見直しまでは、FRBはツイストオペを通じて残存25年超の超長期国債を集中的に買い入れることでMBSの金利低下を強力に促していた。つまり、この面でも既に仕事をしてきた訳である。

その上に、特に米国内では政治的な観点から、国債の大規模な買い入れを再開することへのハードルは高いという見方が強い。なぜなら、これはオバマ政権による拡張的な財政政策をサポートするものであるとして、共和党による攻撃材料に使われやすい面があるためとされており、大統領選を前に採用するには too controversialという訳である。

もちろん、筆者も、大規模な資産買い入れが将来は全くあり得ない訳ではないと思うし、住宅市場の改善をさらに強く促進したいのであれば、国債でなく MBSの大量買入れという選択肢もある。それでも、長期金利が既に十分に低下しただけに追加的な効果は限定的である。あるいは、仮にディスインフレのリスクが明確になるといった展開がみられれば、国債買い入れも含む大規模な資金供給を行うことへの支持も得やすくなろう。今回の声明文が強調するように、 FRBは今後の経済指標を注視することになる。

前節で見た経済成長のダウンサイド・リスクと、本節で見た政策手段への様々な制約とを勘案すれば、今回はNo-actionを決めたFRBにとって、経済情勢によって追加緩和を行うという「バイアス」を示すというのが現実的な選択肢であったことが理解される。

ポイント3:銀行貸出の活性化

FRBが、金融政策によって米国経済を覆うダウンサイド・リスク自体を取り除くことは難しい。それでも、企業や家計の経済活動を支える上で、中央銀行が貢献しうる領域はまだ残っているように思われる。それは、中小企業への銀行貸出の活性化である。

ユーロ圏と異なり、米国の銀行貸出はマクロ的には増加し、商工業貸出の回復は顕著である。しかし、中小企業を対象とする小口貸付の改善は大きく立ち遅れており、NBIM等のサーベイ調査も資金繰りの厳しさを示唆している。つまり、FRBによる強力な金融緩和もこの領域には十分に波及していないと言える。

銀行貸出の活性化に向けては、FRBは当座預金の付利金利の見直しに始まり、担保政策や証券化商品の活用など、様々な手段を考える余地がある。銀行仲介として政治の批判(誤解)を受けないように注意しながら、政策面でサポートできれば、中小企業が雇用の大きな部分を支えていることを考えても意味は大きい。

このようなミクロ政策の実施は、そもそも中央銀行の役割ではないという批判もあるかもしれない。ただ、その是非は別としても、今や先進諸国の中央銀行にとって普通の選択肢となっていることも事実である。

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