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会長によるガバナンス?

2012年07月19日

2010年に始まった法制審議会における会社法改正へ向けた議論が大詰めを迎えようとしている。現時点では検討資料が公表されているわけではないが、各紙の報道によれば、今回の検討の焦点の一つとなってきた社外取締役の選任義務づけは、見送りという方向のようである。

そのことの是非はさておくとして、コーポレート・ガバナンスをめぐる議論で社外取締役の役割が重視されてきた理由の一つは、内部者ばかりで構成される取締役会では、法が求める機能の十全な発揮が期待できないと考えられたからである。すなわち、会社法は、取締役会は代表取締役を含む取締役の職務の執行の監督を行うと規定している(362条2項2号)。しかし、内部昇格を経て取締役に選任された人からすれば、経営トップである代表取締役は「上司」として指示や命令を仰ぐ存在であり、何か疑問を感じても、たまに苦言を呈する程度が精一杯、上司の職務執行を「監督」することなど想像もできないというのが偽らざる本音だろう。

それでは日本の経営トップは、社外取締役による監督と牽制に服する海外企業のトップとは異なり、誰からも有効な監督・牽制を受けないオールマイティの独裁者なのだろうか。

日本の上場会社のほとんどで、経営トップと言えば代表取締役社長のことを指す。同時に多くの会社では、代表取締役や代表権のない取締役の地位を保持する「会長」が選任されている。そして会長は、ほとんどの場合、社長経験者である。

海外にも「会長」と翻訳できる地位を置く会社は多い。しかし、海外企業の会長(チェアマン)は、多くの場合CEO(最高経営責任者)であり、取締役会の議長を務めている。これに対して日本企業では社内規程上の決裁権限から言えば海外のCEOに相当するのは社長であり、取締役会や株主総会の議長も社長が務めることが多い。

海外企業の会長は、ほとんどの場合、退任と同時に会社を去る。シニア・アドバイザーといった肩書きで会社に残るケースもないわけではないが、少なくとも会長経験者が取締役会に名を連ねているということは極めてまれだろう。これに対して、日本では、社長が退任と同時に会社を去ることはむしろ珍しく、多くの場合、会長に「退く」一方、引き続き取締役を務める。

日本企業の会長が、社内規程上の決裁権限を有することはあまりないだろう。多くの会長は、日常の業務執行には関与せず、経営ノウハウや人脈を活かしつつ公的な活動や業界・財界活動を行っている。

しかし、会社が経営不振に陥ったり、深刻な不祥事を引き起こしたりした場合には、会長が事態の収拾に大きな役割を果たすことが珍しくない。多くの読者は、経営責任を取って社長が退任し前社長である会長が「前線に復帰」といった報道を目にした記憶があるだろう。そうした対応措置が、どのような経緯で決定されたのかは必ずしも外部には明らかにならないことが多いが、経営トップである社長に対する会長による監督・牽制機能が発揮された結果とみることもできるのではないだろうか。

会社の業績が順調に推移している平時であっても、経営トップである社長にとって、前任者であり、自分のトップ就任を可能にしてくれた恩人でもある会長が取締役会メンバーとなっていることによる心理的プレッシャーは小さくないだろう。しかも会長は、独立性の高い社外取締役とは異なり、社内事情に精通し、社内人脈も豊富である。前任者の温かくもあるが厳しい視線を日常的に意識するなどということは、海外企業の会長兼CEOにはあり得ないことのように思われる。

もちろん筆者は、会長による経営トップに対する監督・牽制機能が働いていれば、社外取締役は不要であるなどという短絡的な主張をするつもりはない。社外取締役のメリットの一つとして、社内事情やしがらみにとらわれない判断ができるという点は無視できないだろうし、経営不振や不祥事等の問題が長年にわたっている場合には、前任の経営トップである会長が、自らの保身を図るために社長に対する責任追及を回避するといった可能性も否定できないからである。また、会長の権限が多くの場合は曖昧である以上、期待される役割の発揮を制度的に担保できるとは言いにくい点にも留意する必要があろう。

とはいえ、経営トップ経験者が取締役会メンバーであり続けるという体制が、日本企業の、普遍的とは言わないまでも一般的な特徴であることは否定できない。ガバナンスのあり方をめぐる議論は、監査役の権限強化や社外取締役の選任といった公式の仕組みを取り上げることが多いが、社長経験者である会長という存在が日本企業のガバナンスにどのような役割を果たしてきたのかを改めて検証してみてもいいのではないだろうか。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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