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FRBのバーナンキ議長による記者会見-Communication Policy

2012年06月21日

はじめに

今回のFOMCによる政策決定は、いわゆる「ツイストオペ」を年末まで延長するという予想通りの内容となったが、これまでの反応は必ずしも芳しくないように見える。もちろん、FRBはこうした短期の動きを意識して政策を運営しているわけではないが、今回の反応にも傾聴するべき点があるように思われる。そこで、こうした点を意識しながら、今回のポイントを検討したい。

Communication Policy

FRBによる現在の政策運営において、いわゆる「ツイストオペ」とともに根幹をなす枠組みは"Communication policy"である。つまり、今回の声明文でも明示されているように、「2014年後半まで超低金利政策を維持するものと予想する」と表明することで、この期間に対応するイールドカーブを抑制することを狙うものである。

この枠組みは本年1月に導入されたFOMCメンバーによる政策金利の予想経路の開示によって、透明性の面で一段と強化されている。つまり、各メンバーが自身の経済見通しに即して予想する政策金利の先行きが全体として示されることで、声明文に表明される「予想」がFOMCのコンセンサスであることが確認される訳である。

政策手段としての実用性の面でも、この枠組みは長所を持っている。つまり、FOMCメンバーが経済見通しの悪化を認識し、その結果として政策金利の予想パスを下方に改訂すれば、その全体像として「超低金利政策が維持される期間に関する予想」が長期化することになる。従って、FOMCで具体的に何らかの政策決定を行わなくても、いわば自動的に金融緩和効果を強めることができる。

その上で、今回のFOMCの結果に芳しくない反応がみられる理由の一つは、前節のメカニズムが十分に機能しなかった印象を与えた点にあるのではないだろうか。つまり、FOMCメンバーは、本年のGDP成長率見通しを、4月時点に比べて約0.5%ポイントも引き下げた一方で、政策金利の予想経路に関する変化は比較的小幅に止め、声明文も「2014年後半まで」という表現を維持したことが、多少の意外感を持って受け止められた可能性がある。

FOMCメンバーのこうした行動の理由は、直接聞いてみなければ正確には分からないが、一つの解釈は、政策金利をより長い目で見た経済見通しに沿って考えていることである。実際、2013年のGDP成長率や失業率の見通しは2012年ほど大きくは下方修正されていない。金融危機前のように、金融政策は1~1.5年といった効果のラグを考慮して運営すべきという考え方が維持されているのであれば、こうした予想も合理的である。

いずれにせよ、FRBによる"Communication policy"は、市場だけでなく、FOMCメンバーにとっても、まだ学習過程にあると考えるべきなのであろう。こうした枠組みが、日本の「時間軸政策」のように中央銀行が一方的に具体的な解除条件を示すのでなく、解除条件自体が中央銀行と市場の対話を通じて形成される面を含むだけに、学習過程にも多少の時間を要すると考えるべきかもしれない。

QE3

今回の記者会見において印象的だったのは、冒頭のCNBCのLiesman氏への回答を含めて、再三にわたって、「非伝統的政策」の副作用を指摘した点であった。

最も具体的は説明は記者会見の後半、19番目の質問に対するものであり、バーナンキ議長は、(1)円滑なExitが難しい、(2)市場機能に影響を与える、(3)金融システム面での問題を含む、といった点を挙げている。これらを筆者なりに解釈すれば、(1)はいったん大量の金融資産を買入れてしまうと、市場に売り戻すことが、経済や市場が安定を取り戻していたとしても容易でなくなりうることを指す。

(2)は特定の金融資産を大量に買入れる結果、当該資産だけでなく、代替ないし補完関係にある金融資産も含めて、価格(金利)が歪む可能性である。最後の(3)は、資産価格インフレなどに繋がることで、長期的に金融システムをむしろ不安定化しうることである。

もちろん、バーナンキ議長は、同じ記者会見の中で、経済状況や金融システムの状況が悪化すれば、追加的な政策対応を採る用意があるという、これまでのスタンスを強調している。また、おそらくは、追加緩和の用意というメッセージを弱めることがないよう、上記のような副作用を説明する際にも「非伝統的な政策」といった一般的な用語を使ったのであろう。

それでも、バーナンキ議長によるこうした副作用を巡る議論が、いわゆる"QE3"を念頭に置いたものであることは、記者会見の出席者だけでなく、市場関係者にもある程度明確に意識されたように思われる。その意味で、"QE3"の可能性が小さくなったと感じられたことが、今回の記者会見に対する芳しくない反応のもう一つの理由になっているのではないだろうか。

バーナンキ議長が、こうした副作用を巡る議論に今回の記者会見である程度深入りしたのがなぜかという点も、筆者のような外部の観察者には判然としない。もしかすると、米国市場の関係者の多くが理解するように、QE3には政治的な制約が大きい一方、FRBは公式にはそうした理由に言及しにくい状況があるのかもしれない。あるいは、より本質的な問題として、QE2が目指した長期金利の低下が-欧州情勢の不安定化もあって-十分に実現しているのに、景気回復が加速しないことで、FRB自身にとってもQE3の効果と副作用に関する評価のバランスが変化しているのかもしれない。この点は、今年の後半にかけて注視する必要がある点の一つであろう。

Credit channel

「非伝統的政策」を巡る今回の記者会見での議論の中で、興味深かった点を付け加えれば、18番目の質問者が英国のケースを引用しながら、銀行貸出をバックファイナンスする政策手段の可能性を質したのに対し、バーナンキ議長が興味を示した点である。

そもそも、バーナンキ議長が大学の研究者であった際に、Credit channelの議論を展開していたことを思いおこせば、こうした関心も自然なことにみえるが、もちろん、背景はこれだけではなかろう。

前節でも触れたが、米国債の現在のイールドカーブは、金融危機以降を通じて最も低位な領域にあって、その意味で政策意図は実現されている。また、マクロ的には商工業貸出が前年比10%以上も増加し、バーナンキ議長も言及したように起債が極めて高水準に達するなど、クレジットの拡大に繋がっていることも確かである。しかし、FDICのデータが示すように、中小企業向けの小口貸出はむしろ減少を加速するという対照的な状況になっている。この点は、雇用統計やNBIMのサーベイが示唆するように、中小企業の雇用や設備投資の回復の顕著な遅れと関係していることが考えられる訳である。

上記の質問者には、英国のケースでなく、日銀の成長基盤資金オペに言及して欲しかったと思っている方も少なくないであろう。

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