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FRBのバーナンキ議長による記者会見-日本の友人へ

2012年04月26日

はじめに

米国以外の金融市場におけるQE3に対する期待(ないし恐怖症)とは対照的に、米国市場では追加緩和に対する期待はあまりみられなかっただけに、金融政策の運営自体という点では今回のFOMCに対する関心は高くなかったと言える。それでも、今回見直された見通しとバーナンキ議長の記者会見には興味深い内容が含まれていた。先週、筆者が米国を訪問した際の議論も含めながら、いつものようにポイントを検討しておこう。

潜在成長率について

筆者の今回の出張で印象的であったのは、面会した多くの専門家が、米国の潜在成長率が一段と低下した可能性に言及した点であった。こうした議論はFRB自身に端を発している面がある。例えば、3月のFOMC議事要旨は議論の存在を示唆したし、バーナンキ議長とイエレン副議長が3月に行った講演もこの問題に触れている。

こうした懸念の背景としては、上記の講演の共通テーマである労働市場の問題が意識されている。筆者の面会の中でも、①累積している長期失業者は、スキルの喪失などのため再雇用が難しく、経済成長に対する労働の寄与を押し下げるのではないか、②IT革命のような現象が一巡した中で、労働生産性の上昇率の鈍化が続くのではないか、といった点を挙げる向きが多かった。

仮に、潜在成長率が低下しているとすれば-他の条件を一定とすれば-同じ経済成長率の下でも失業率が低下しやすくなる一方、インフレ率が高まりやすくなることが考えられる。その意味でも、FRBのDual Mandateと深い関係を有する問題であり、今回のFOMCによるGDP成長率見通し-特に潜在成長率に対する見方を反映する「long run」の部分-にどのような数字が入るのか興味深い面があった。

しかし、今回の見通しでは、この「long run」の部分は本年1月時点と全く変わっていない。潜在成長率の推計は十分なデータの蓄積があった後でも簡単ではないだけに、経済情勢の推移に即して推計をタイムリーに見直すことなど期待してはいけないのかもしれない。あるいは、上記の講演がともに強調するように、労働市場の問題は景気循環的な側面が強く、潜在成長率の見直しの理由として不適切という点で、バーナンキ議長やイエレン副議長の主張がFOMCの多数派となっているのかもしれない。

それでも、上記の①のような議論には相応の説得力もあるし、それ以外にも、なお多くの負債を抱える家計の消費の持続力などに照らすと、設備投資を通じた資本の寄与も中長期の視点から考える必要もあろう。その意味で、潜在成長率を巡る議論は米国経済と金融政策にとって、今後も焦点の一つとなるように思われる。

政策金利の予想パスについて

今回のバーナンキ議長の記者会見では、CNBCのLiesman氏を含む質問者が、FOMCメンバーによる政策金利の予想パスと声明文との微妙な差異を問題として指摘した。つまり、前者に関しては、初回の利上げ時期に関して、1月時点では存在した2016年中との見方がなくなり、結果的に2014年中との見方が増加(5名→7名)した。また、2014年末の政策金利予想も、1月時点に比べて全体的に上方へシフトしている。こうした変化にも拘わらず、声明文の方では、相変わらず「2014年後半まで政策金利を例外的に低水準に維持」という表現が残されているのである。

こうした指摘に対し、バーナンキ議長は、政策金利の予想パスはFOMCに対する事前のインプットである一方、声明文はFOMCにおける議論を踏まえたものであるとした上で、予想パスはあくまで予想の中心を示したに過ぎず、FOMCではこれらに対するリスクも含めて議論すると指摘した。これらは説得的な内容ではある。

ただし、2014年末には政策金利が1%以上になるとの予想が10名に達したことを考えると、2014年後半まで超低金利を維持するという「時間軸政策」との整合性も微妙になってきた。同時に、バーナンキ議長による説明は、FOMC前にhawkishであったメンバーの一部が、FOMCでの議論を通じて見方を修正したと理解しうる面もある。そのこと自体は、金融政策の決定を合議で行うメリットとしてむしろ評価すべき点ではあるが、金融政策のコミュニケーションを難しくする面も否定できない。

さらに、政策金利の予想パスが、FOMCで投票権を持つ10名に限らず、FOMCの全メンバー17名によって行われることも、この問題を複雑化している。例えば、2014年末の政策金利が0.5%以下との予想が7名存在するが、これらがすべて投票権を持つのであれば、(投票権を持つ10名中7名がそう考えるので)上記のような「時間軸政策」も適切となる。因みに、筆者は米国での面会の際に、政策金利の予想パスを示す点に違う色を付けることで、個々の FOMCメンバーの見方が時間を追ってどう推移するか認識できるようにして欲しいとコメントしてみたが、今回の記者会見でもBloombergの記者が同様な視点での問題提起を行った。

いずれにせよ、バーナンキ議長も認めたようにコミュニケーションのあり方は発展途上であり、今後もイエレン副議長に率いられる小委員会での検討の成果をもとに試行錯誤が続くことであろう。

日本との政策対応の違い

今回の記者会見で予想外であったのは、バーナンキ議長が日本との政策対応の違いについて、明確に持論を述べたことであった。

つまり、WSJの記者が、バーナンキ議長の自説と照らしてFRBが十分な政策対応を行っているか質したのに対し、バーナンキ議長は、15年前に日本に指摘したことは、①デフレを防ぐべきであり、それは可能である、②政策金利の名目ゼロ制約の下でも、活用しうる政策手段は存在する、という2点であり、 FRBは2009~2010年のような時期にこれらを実践したと強調した。さらに、日経の藤井氏による追加質問に対しては、米国が銀行の不良資産問題に迅速に対応し、早期に自己資本強化を図ったことも、日米でのその後の回復パスに違いをもたらしたと説明した。

こうした発言の内容自体には特段の新味はないが、このところ、日本側の当局者が金融危機後の金融経済が陥りやすい問題を強調する機会が多かった点を考えると、バーナンキ議長が危機対策のあり方について問題を提起し、危機後の金融経済の出発点の違いに注意を向けたように見える点では興味深い面がある。

もっとも、バーナンキ議長も、同じWSJの記者に対する回答を含めて、米国の失業率が高止まりする中で、その低下を加速させるためにより強力な緩和政策を行うことには、金融政策に対する信認に基づくインフレ期待の安定という「貴重な財産」を失うリスクがあるので見合わないとも述べている。

日米の金融政策の考え方には、本当にどの程度の違いがあるのだろうか。そのようなことに思いを巡らせる中で、明日(27日)の日銀による政策判断を迎えることになる。

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