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ECBによる3年物LTRO(第2回目)-多々益々弁ず

2012年03月01日

結果の概観

ECBによれば、第2回目となる3年物LTROの落札総額は5295億ユーロに達し、驚異的な規模を記録した第1回(昨年12月)の4891億ユーロをさらに上回る資金供給を実施することとなった。

実施規模への異例な注目

中央銀行にとって金融市場への資金供給オペは文字通り日常茶飯事であり、通常は、いわゆる中央銀行ウオッチャーのような人々や短期金融市場の関係者だけの関心の対象である。

しかし、今回の3年物LTROは、株式や為替も含む幅広い金融市場の関係者から金融監督当局まで含めて、欧州だけでなく米国や日本も含めて注目するという異例の事態となっていた。金融メディアも有識者に対して実施金額に関する予想をサーベイし、予想結果のレンジや中央値を報道するなど、いわば、特定のオペの結果が、政策金利の変更と同じ重みを持って扱われていた訳である。

もちろん、第1回目の3年物LTROが上に見たように空前の規模で実施され、欧州の短期金融市場や国債市場の利回り上昇に歯止めをかけただけでなく、グローバルな金融市場を含めて不安心理を抑制することに成功したことを考えれば、こうした異例の注目を集めることも当然という面はある。しかし、気になるのは、実施金額をどう解釈するかという考え方について、この間に大きなばらつきがみられた点である。次節以降で詳しく考えることとしよう。

危機対策としての解釈

LTROは、もともとは金融調節の手段として使われていた。しかし、「リーマンショック」の前後には、短期金融市場のストレスが高まり、ターム物資金の取引が難しくなったことに対応するため、3ヶ月物や6ヶ月物といった長めの資金供給手段として活用された。ECBは、これを"enhanced credit support"と呼んだが、要するに日米での「信用緩和」と同趣旨による措置である。

その後、欧州危機が深刻化する中で、ECBは6ヶ月物を再開し、さらに1年物を導入したが、これらも「信用緩和」的な措置であった。その上で、昨年 12月に初回を実施した3年物については、ECBも期待される効果として様々な可能性を指摘した(詳細は、2012年1月のドラギ総裁の記者会見をカバーした当コラムのバックナンバー:「ECBのDraghi総裁による記者会見-「思いの丈」は伝わったか」を参照されたい)。しかし、挙げられた4点のうちイールドカーブの上昇の抑制以外(銀行に対する流動性の保険、銀行の債券償還資金の確保、銀行によるALM再構築の促進)は、すべて金融システムの安定に関わる内容であり、従って、ECBの主たる趣旨は、「信用緩和」ないし広い意味で「危機対策」にあったと解釈するのが自然であろう。

3年物LTROをこのように位置づける場合、もしも第2回の実行金額が少なかったとしても、それは金融機関による資金調達ニーズが減ったためであると言えれば、むしろ好ましいことと解釈できる。この点に関しては、LTROの実行金額をECBは直接にコントロールし得ないことを理解していないことに基づく誤解も見受けられる。つまり、ECBはLTROの実施総額に限度を設けておらず、適格担保を差し出した金融機関に掛け目の範囲内で資金を供給する。従って、実行総額は金融機関次第であるが、市場には、FRBのいわゆるQE2や日銀の資産買入れのように、中央銀行の目標に沿って能動的に実施されるスキームと混同する向きがあるようだ。

その上で、LTROの実行金額が少ない方がむしろ好ましいという単純な解釈では終わらない理由として、2つの点を挙げておきたい。

第一に、技術的な問題として、第1回から第2回の間に適格担保のが拡大された効果を勘案する必要がある点である。ドラギ総裁も2月の記者会見では、こうした措置によって、より小規模で新たな顔ぶれの金融機関が参加することに期待を表明した。現時点でその詳細は明らかでないが、例えば、今回のLTRO の落札先金融機関数は800と前回(523)よりさらに増加し、かつ1先当りの落札平均額は6.61億ユーロとこれも前回(9.35億ユーロ)より小さいことは、少なくともドラギ総裁に期待に沿った形になっている。

第二に、本質的な問題として、このLTROがLLRの要件を満たしておらず、本来の趣旨以外の使われ方もできる点である。LTROの金利は期中の MRO金利の平均であり、いわゆる「バジョット・ルール」によるペナルティ金利はない。金融機関からみれば適格担保さえ確保できれば利用しうる「優しい」制度であり、LTROで調達した資金を運用して利鞘を取ることも可能である。もちろん、ECBもこうした副作用は理解しており、それでも、金融危機の抑制のために金融機関の「stigma」を抑制することを優先するという考え方であろう。しかし、この点が次節の問題にも関わっている。

金融政策としての解釈

今回のLTROが幅広い市場参加者の関心を集めた最大の理由は、LTROによる巨額の資金供給を通常の金融政策に近いものと受け止める向きが多い点にあると思われる。前回の3年物LTROが実施された昨年12月の後半以降、グローバルな金融市場のセンチメントが好転した背景には、巨額の資金供給が欧州市場のストレスを抑制するとの期待があったことは言うまでもないが、同時に、株式や為替、商品の市場ではこうした流動性による資産価格への影響に注目が集まったことも事実である。

こうした見方は、その後にFRBのバーナンキ議長が「時間軸政策」の長期化を示唆し、日銀が「物価安定のゴール」を導入したことで、「米欧日の協調緩和」というストーリーとなって益々強くかつ広く共有されるようになっている。しかも、この流れは、中央銀行関係者の情報発信によって強められた面もあろう。つまり、巨額のLTROの実施に懐疑的なNCB等から、資金供給に伴うインフレリスクへの言及が見られることは-それ自体が正しい問題意識であっても-市場関係者からみれば、LTROの金融政策としての性格をハイライトしているように見えるのではないだろうか。

少なくともECBの趣旨に照らしてみれば、3年物LTROは広い意味での「危機対策」であるし、低下してきたインフレ率の先行きに不透明性が出てきたとすれば、「金融政策」の緩和も一筋縄では行かないように見える。ただ、前節に見たように、趣旨に拘わらず巨額の資金供給が行われること自体は事実であるし、それを活用しうるプレーヤー、ないしはそれを材料視しうるセンチメントがグローバルな金融市場に存在することも事実であろう。

コミュニケーション政策

ECBは、3年物LTROに伴う資金供給のインプリケーションについての解釈を金融市場に委ねることもできるし、市場の方が最終的な結果を正しく理解しているのかもしれない。ただ、市場が突然に「梯子を外された」と感じないようにするためにも、ドラギ総裁はLTROに関する市場との対話に注力すべきかもしれない。こうして、コミュニケーション政策は米欧日の中央銀行に共通の課題となったようだ。

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