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ECBのドラギ総裁による記者会見-Eurogroup会合の直前に

2012年02月10日

はじめに

今回のECB政策理事会は、声明文の冒頭に明記されていたように、1月会合以降に入手可能となった新たな情報が、ユーロ圏の経済情勢に関する従前の評価と整合的なものであっただけに、市場の注目度は必ずしも高くなかった。しかし、ご覧のようにEurogroup会合が急遽招集され、それに間に合わせる形で、ギリシャの追加的な財政削減策について主要政党間での合意が成立するという新たな展開が同日に展開したことで、金融システム安定に関するECBの役割という別な側面の課題が浮かび上がることとなった。

Eurogroup会合は、現地時間で午後6時(日本時間午前2時)開始と伝えられるため、その結果如何では本稿も書き換えなければならないかもしれないが、取り敢えず、記者会見終了時点での印象を纏めておきたい。

ポイント1:ギリシャ救済策に関するECBの貢献

上記のような事情を踏まえると、EMU諸国によるギリシャに対する追加支援、および2月13日までに合意することが期待されているPSIに際して、ECB はどのような貢献をするのかが焦点になると考えるのが自然であろう。実際、今回の記者会見では、この点に関する質問は相応に多かった(19問中6問)。ただし、これらの中で、ECBが民間金融機関とともに元本削減を受け入れるといったオプションに言及する向きは皆無であった。

こうした事実は、市場関係者の間でECBも元本削減を受け入れるべきといった意見が依然として聞かれることと対照的で、興味深い面がある。ECBによるプレスに対する「コミュニケーション政策」が成功しているのかもしれないし、ドラギ総裁に元本削減を受け入れる可能性を質しても、意味のある回答が得られるはずもないという理解が浸透しているのかもしれない。

その上で、EFSFに対するギリシャ国債の売却を念頭に置いた質問、ないしは償還まで保有し続けるという以前の見解を問い直す質問が目立ったことは、少なくとも現地メディアの間では、EFSFへの売却がオプションの中で焦点であるという理解が共有されていることを示唆する。この点に関して、一部の記者は、EFSFへの売却条件によってECBに生ずる損失の性格を質問し、ドラギ総裁はEFSFがEMU諸国の政府とみなされるならば、これに対する利益移転は条約違反になるという解釈を示したが、この部分の説明は総じて歯切れが良くなかった。もしかすると、数時間後ないしは2月13日までには、その本当の理由が明らかになるかもしれない。

ポイント2:適格担保の拡大

ECBだけでは決定し得ない要素を含む上記のポイントに比べると、オペの適格担保の拡大については、ドラギ総裁としても、ECBの責任と自らの言葉で語ることのできる話題であるし、テクニカルな問題である割には比較的多くの質問(5問)が取り上げた。

すなわち、ECBは昨年12月の政策理事会で、適格担保のガイドラインを見直し、これに沿って各NCBが具体的な資産の追加を申請していた。政策理事会は、本日、7ヶ国のNCB(アイルランド、スペイン、フランス、イタリア、キプロス、オーストリア、ポルトガル)から申請のあった拡大を承認したと公表している。

今回の声明文によれば、その狙いは、中小企業に対する銀行与信を確保することにあるとされている。つまり、適格担保の拡大を通じて中小金融機関が ECBから直接に資金を得ることが可能にすることで、中小金融機関に対する依存度の強い中小企業への資金供給を確保しようとするものである。欧州が日本と同様に金融機関による与信に依存する領域が大きいことを考えると、これはいわゆる「信用緩和」政策の欧州版であると言える。

適格担保に関する今回の質問で目立ったのは、拡大した担保のリスク管理を問うものであった。この点に関しては、①リスク管理がきちんと行いうるのかという質問と、②各NCBがリスクを分担する枠組みは適切かという質問の2つに大別される。

①に関してドラギ総裁は、ECBないしESCBによるリスク管理の仕組みに自信を持っていることを丁寧に説明していた。ただ、ドラギ総裁の気持ちを斟酌すれば、メディア(ないし、その背後にいる市場)が、ギリシャ国債に関しては損失の負担を求める一方、適格担保に関しては損失の抑制を求める面があることを苦々しく思っていたかもしれない。その意味では、以前の記者会見で示されたように、ECBとしてバランスシートの健全性を保つ意義をどう考えているか、こうした考え方には変化があるか、という「そもそも論」を質すことがあっても良かったかもしれない。一方、②に関するドラギ総裁の回答は、担保の審査には現地の実体経済に関する知見が不可欠であるだけに、各NCBが行うことに合理性があるという実務的な説明を行った。これ自体は説得力のある議論ではあるが、担保管理が個々のNCBで行われることに伴う不公平という根強い不満を浮き彫りにする面があった。この点は、かつて、ECBの適格担保が各NCBによる適格担保による「和集合」に過ぎないと言われた状況からは改善している面があるとされるが、個別国の金融システムに違いが残る以上、簡単には解消しがたいように思われる。

ポイント3:経済状況の改善と政策金利

今回の記者会見で個人的に意外であったもう一つの点は、EMU諸国の景気見通しについての質問が見られたことである。確かに、ECBによる声明文によれば、実際の経済指標とセンチメントの双方が前回会合時に比べて改善している面がある。例えば、第13番目の質問者は、この点を捉えて、利下げ余地が乏しくなったかどうかを質していた。

しかし、このような質問は、残念ながらまだ気が早すぎると言える。声明文が指摘するように、先行きを考えると、政府の財政緊縮策や銀行の資産圧縮の影響によるダウンサイドリスクが大きいことは誰の目にも明らかである。さらに、政策金利の引き下げを現在の水準で止めていることには、預金ファシリティ金利とMRFによって形成されるいわゆる"corridor"を現在の150bpに維持すべきかどうかという、市場機能という別の課題に関する考慮が含まれている可能性も考えられる。

欧州経済が停滞する可能性がある中でこのような質問が出ることは興味深く思える。ECBのインフレに対する厳格なスタンスが広く理解されているためなのか、あるいは、金融危機後であっても、かつての日本とは違ってデフレスパイラルのリスクが少ないためなのか、引続き注視する必要があるように思う。

おわりに

今回は、日経とテレビ東京の記者が我が国の記者として久しぶりに質問に立った点も目立った。財政赤字も為替もグローバルな問題である以上、日本の視点から考えを質すことは双方にとって有用であるし、前総裁の頃のように定着することを期待したい。

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