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東証のシステム・トラブルと代替市場確保の必要性

2012年02月08日

2012年2月2日、東証でシステム・トラブルが発生し、取引開始時刻の午前9時からソニーなどの株式や上場投資信託(ETF)等、計241銘柄の売買が停止された。トラブルの原因は、株価情報配信システムで一部のサーバに障害が発生し、予備機も想定通りに作動しなかったためとされる。その後、ハードウェアの交換等によってシステムは復旧し、午後の取引は正常に行われた。

取引所市場の使命は、株式など有価証券の公正な価格形成と円滑な流通を実現することである。現代の取引所では、注文情報の発信、注文の受付と約定、約定後の相場情報の発信、清算、決済という取引の一連の流れは、全てコンピュータ・ネットワーク上で処理される。そのため、取引所のシステムは、本システムが何らかの原因でダウンしても直ちに予備システムを立ち上げて取引の継続を確保するなど、想定外の取引停止を招くことのないよう構築されているはずである。それにもかかわらず、日本株のメインマーケットである東証において、長時間の取引停止が生じたことは、極めて遺憾としか言いようがない。

東証は、過去にも深刻なシステム・トラブルに見舞われている。2005年11月には、プログラムの作成ミスが原因で全銘柄の取引が4時間半にわたってストップした。同年12月には、新規上場株の誤発注をめぐって注文の取消しが想定通りに行えず、市場の混乱を引き起こした。この件では取引参加証券会社との間で訴訟も起きている。また、2006年1月には、ライブドアへの強制捜査がきっかけで急増した売買注文を取引システムが処理し切れなくなり、取引時間を急遽短縮するという極めて異例の措置がとられた。

東証は、こうした苦い経験を教訓としながら、2010年1月、HFT(高頻度取引)にも対応できる高速処理を売り物にする新取引システム「アローヘッド」を稼働させたのである。その新システムが、再び大規模なトラブルを引き起こしてしまったわけである。

もっとも、実は、多数の銘柄の取引が長時間にわたってストップするといった大規模なシステム・トラブルは、海外の取引所でも決して稀ではないのである。過去の著名な例としては、2000年4月に起きたロンドン証券取引所(LSE)におけるほぼ終日にわたる取引ストップなどがあるが、ここ数年に限ってみても、欧州やオーストラリア、カナダの取引所で、少なからぬ件数の相当な規模でのトラブルが発生している。例えば、2011年2月25日にはLSEで全銘柄の取引が4時間にわたってストップし、同年6月20日と21日にはNYSEユーロネクストの欧州市場で2日続けて全銘柄の取引が1時間から2時間ストップした。

ここで興味深いのは、2000年4月のLSEにおけるシステム・トラブルが、英国議会でも取り上げられるなど大いに問題視されたのに対し、ここ数年のトラブル事例は、市場関係者の間でも、政府や監督当局によっても、それほど重大な問題としては受け止められていないようなのである。その背景には、私設電子取引システム(PTS)の成長など、近年の各国における市場構造の変化があるように思われる。

2000年当時、LSE上場銘柄の取引は、ほぼ100%LSEで行われていた。だからこそ、LSEにおける大規模なシステム・トラブルは、英国経済のインフラストラクチャーを麻痺させたとして重大視されたのである。ところが、欧州では2007年11月の金融商品市場指令(MiFID)施行を契機として主として機関投資家によるPTSの利用が急拡大し、伝統的取引所の取引シェアが大きく低下している。裏を返せば、LSEやNYSEユーロネクストの欧州市場といったメインマーケットでシステム・トラブルが生じても、チャイエックス・ヨーロッパやBATSヨーロッパといったPTSを利用することで、取引を継続することが可能になったのである。

ところが、今回の東証におけるシステム・トラブルでは、国内のPTSは、メインマーケットの代替市場としての機能を果たすことが全くできなかった。というのも、PTSを含む取引所外取引を監督する日本証券業協会が、自主規制規則に基づいて東証で取引停止となった銘柄のPTSにおける売買を停止したからである。他方、取引停止銘柄の一部が重複上場されていた大証では通常通りの取引が行われ、例えば、ソニーの出来高が前日の200株から11万1千株に急増するなど、市場全体が麻痺することを防ぐ機能を果たした。

今回のようなシステム・トラブルが繰り返されてはならないと考えるのは当然だが、海外の例をみても、高度化・高速化した取引所システムで全銘柄の売買停止に至るようなトラブルをゼロにすることは非常に困難であるように思われる。万全の再発防止策を講じつつ、他方で、トラブルが仮に発生しても市場全体としては公正な価格形成と円滑な流通が維持されるような工夫が求められるのではないだろうか。

今回のトラブル時には、前述のように大証市場が、部分的に東証市場の代替として機能したわけだが、大証での取引は、上場会社自らが希望して重複上場を行っている場合にのみ可能であり、その範囲は限定されている。また、現在、東証と大証は経営統合を進めており、2013年以降、両取引所の現物株市場は、基本的には統合され、重複上場は行われなくなる見通しである。

こうしたことを踏まえるならば、今回の事態を一つの教訓として、日本株のメインマーケットである東証市場に対するPTSの補完機能、代替機能を充実させるような方策の検討が求められる。PTSの取引シェアは次第に上昇し、2011年12月には5%近くに達したが、他方でTOB規制の適用を懸念する機関投資家が利用を躊躇しているといった問題もあり、その存在感はまだ十分ではない。

東証と大証の統合は、日本市場の国際競争力強化や取引の効率性向上といった観点からは、その早期実現が大いに期待されるべきものだが、統合による市場の集中化がシステム・トラブルによる影響の深刻化という好ましくない結果につながってはならないだろう。今後は、システム・トラブル時にPTSの取引を停止するといった対応をとらないようにするとともに、PTSをめぐる規制の見直しを進めることが必要ではないだろうか。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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