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NYSEユーロネクストとドイツ取引所の合併断念

2012年02月03日

2012年2月1日、欧州連合(EU)の行政機関である欧州委員会は、2011年2月に合意されていたNYSEユーロネクストとドイツ取引所による合併を禁じるとの決定を発表した。両社が合併すると、世界における欧州関連の金融デリバティブ、より具体的には欧州各国の金利、個別株、株価指数のデリバティブ取引の市場において取引と清算の90%以上を握り、EUの競争法(独占禁止法)が禁じる独占に近い状態が生じることになるというのが、その理由である。

両社の合併計画をめぐっては、2011年10月、欧州委員会の競争政策局が、計画はEU競争法に抵触するとの見解を示す書簡を両社に対して送付していた。これに対して両社は、店頭デリバティブ取引の清算機関であるBクリアに対する持ち分の売却や統合後のグループ傘下の清算機関へのグループ外取引所からのアクセスを認めることなどを提案した。それでも当局の反応が厳しかったことから、デリバティブ決済の手数料に経営統合後3年間は上限を設けることや NYSEユーロネクスト傘下のロンドン国際金融先物取引所(LIFFE)における個別株デリバティブ事業の売却、ドイツ取引所傘下のユーレックスの取引システムの第三者へのライセンス供与など、追加的な是正措置も提案していた。

他方、米国の独占禁止当局である連邦司法省は、2011年12月、ユーレックスが間接的に保有する他の電子取引所の株式を売却することという条件付きで両社の合併を承認していた。このため、両社は、仮にEU競争政策局の事務方が合併を認めるべきでないとの結論を変えなかったとしても、加盟国政府によって指名された委員で構成される欧州委員会では政治的な配慮から合併が承認される可能性もあるのではないかとの一縷の望みをつなぎ、ロビー活動に全力を挙げていた。しかし、そうした働きかけは、結局実を結ばなかったわけである。

欧州委員会による決定を受けて記者会見したドイツ取引所のフランキオーニCEOは、「今日は世界の金融市場における欧州にとっての、そしてその将来の競争力にとっての暗黒の日だ」と嘆いた上で、今後は単独での成長を追求することを明らかにした。翌2月2日には、NYSEユーロネクストも、合併合意の破棄を正式に発表した。

金融資本市場のグローバル化と取引のコンピュータ化が進展し、株式などの現物市場とデリバティブ取引市場との融合が進む中で、世界の有力取引所は、合従連衡を繰り広げてきた。しかし、世界金融危機の収束後最初の大型統合構想であったシンガポール取引所とオーストラリア取引所の合併計画は、「国益に反する」と主張するオーストラリア政府の反対によって挫折し、NYSEユーロネクストとドイツ取引所の合併計画と時を同じくして公表されたロンドン証券取引所グループとカナダの取引所運営会社TMXグループの経営統合も、カナダ国内の反発が強く白紙撤回された。今回の合併断念で、一昨年から昨年にかけて相次いで明らかになった取引所の国際的な統合構想のうち、実現にこぎ着けたのは、米国の電子取引所BATSによる欧州の電子取引システム(MTF)チャイエックス・ヨーロッパの買収(2011年11月株式取得)だけという結果になった。

「国益」と「独占禁止法」という二つの壁に阻まれる形となった取引所の国際的な再編だが、これで現状が固定化されることになるとみる向きはほとんどない。取引所システムの高速化・高度化が進み、システム投資の負担が重くなるとともに規模の経済性が働きやすくなる傾向が強まっている以上、いずれ、これまでの失敗の教訓に学びつつ、別な組み合わせでの再編の動きが表面化する可能性が高いだろう。

日本でも、東証と大証が経営統合で合意し、2013年1月にも統合持株会社「日本取引所グループ」を発足させるとしている。日本国内におけるシェアという面だけに着目すれば、日本取引所グループは、現物株式や上場投資信託(ETF)の取引、新規公開、証券デリバティブ取引のいずれにおいても、 90~100%のシェアを占めることになる。NYSEユーロネクストとドイツ取引所という組み合わせが独禁法に反するのであれば、東証と大証でも同じではないかと考える向きもあるかも知れない。既に東証、大証は、公正取引委員会に対して独禁法に基づく届出を行い、2月3日には経営統合が競争に与える影響について詳細に審査する第二次審査が開始された。

しかし、日本の現物株式は取引所外の私設電子取引システム(PTS)でも取引されており、その取引シェアはまだ5%弱だが近年急激に上昇している。新規公開については、地方取引所でも新興市場が開設されており、かえって「乱立」との批判も受けるほどである。証券デリバティブ取引についても、例えば、大証の主力商品である日経225株価指数のデリバティブ取引は、シンガポール取引所やシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)でも取引されており、特にシンガポール市場は、取引時間帯が大証と重なり、より直接的な競争関係にある。欧州委員会が実質的な競争が存在せず、新規参入の可能性もほぼ閉ざされていると指摘した欧州関連の金融デリバティブの市場とは、状況が大きく異なっている。

また、日本市場そのものが、アジアの金融センターとしての地位を香港やシンガポール、更には上海などと激しく争っている。日本は、域内では相対的な先進国であるだけに、域内の新興国市場の台頭で地盤沈下が懸念されているのが実情である。日本取引所グループは、独占的地位にあぐらをかくどころか、激化する国際的な競争に生き残りを賭けて挑む挑戦者に過ぎないのである。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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