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FOMCによる政策金利の予想の公表を考える

2012年01月05日

はじめに

FRBは、今般公表した12月FOMCの議事要旨の中で、FOMCメンバーによる①今後数年間の政策金利の予想、②望ましい政策金利の水準、③現在のゼロ金利政策の解除時期の予想、の3つを公表することを示した。これらは、従来からの経済見通しと一体で公表され、初回は今月(25~26日)のFOMCで纏められるとしている。

これらは、FRBのsub-committeeで検討されてきたコミュニケーション・ポリシー強化の一環として実施されたが、ゼロ金利制約に直面した先進諸国の金融政策にもインプリケーションを持ちうる内容を含むだけに、中長期の視点から主なポイントを検討したい。

金融政策の「鏡」

一般論としては、中央銀行が政策金利の「予想」を開示することは、中央銀行自身からみて決して望ましいことではない。なぜなら、金融市場はそうした「予想」を文字通り予想とは受け取らず、政策金利の運営に関するコミットメントと理解する可能性が高いからである。そうなれば、市場はそうした「予想」を織り込むことになり、イールドカーブは「予想」に沿った形状となるであろう。つまり、中央銀行からみて、政策の運営に当たって金融市場の価格(金利)に集約されるはずの様々な情報を活用できなくなる訳である。

当然に、FRBはこうした弊害を最小化するためにも、公表するのはあくまでも「予想」であることを強調し、市場の理解を求めるであろう。しかし、平時であればともかく、現在ではそれは難しいことのように思える。そもそもFRBは、「時間軸政策」を実施することを通じて、政策金利に関するコミットメントを既に行っているからである。FRBが前節の①と③を共に公表することには、両者の違いを明確化する意味あいもあるのかもしれないが、逆に、ともに公表されることで同じ性格のものとして混同されるリスクも小さくない。

ただし、金融市場からみれば、既にFRBを含む中央銀行は既に市場機能を減殺するような政策手段を種々実施してきたので、政策金利の「予想」の公表が市場機能を損なう懼れがあるなどといまさら議論しても仕方がないという面もあるのかもしれない。実際、ゼロ金利制約に直面した先進諸国の中央銀行は、先に挙げた「時間軸政策」のみならず、長期金利に影響を及ぼすことを意図した債券買い入れや超長期のオペなど、市場に政策意図を刷り込む形での政策運営を実施してきた。その意味では、市場の発する情報を、金融政策の「鏡」として大切にしていた頃の枠組みを持ち出しても、いまさら仕方ないのかもしれない。

市場の期待の安定

11月FOMCの議事要旨で、政策金利の予想の公表が検討されていることが明らかになって以降、メディア等で示された反対の主たる理由は投機的行動を助長する懼れであった。こうした論者の多くは、2004年からグリーンスパン前FRB議長が実施した"measured pace"での利上げとその影響を念頭に置いている。毎回のFOMCで25bpずつ機械的に利上げを行う戦略は、確かに、利上げ期としては長期金利の安定をもたらしたが、結果として、その下での投機的な行動を助長したとの理解が一般的となっている。今回も、数年にわたる政策金利の予想を公表することが同様な効果をもつのではないかという不安には一定の合理性があると言えよう。

ただし、今回、FOMCが考えているのは各メンバーの予想の公表である。現状の経済見通しにも相応のばらつきが存在することを考えると、政策金利の「予想」も相応にばらつくのであろう。もちろん、それでも金融市場は「中心値」だけに着目し、前節でみたように「コミットメント」と理解するリスクはある。しかし、少なくとも現時点では、前回のようにマクロ的投機的行動を生むことに直結するとは必ずしも限らないのではないか。今回の金融危機前の「バブル」にとって、金融緩和が重要な要素であったとしても、金融システム内のリスクマネーや金融機関の自己資本の状況、金融規制のあり方やグローバルな成長期待などといった「バブル」の成長にとって重要な要素が、この間に大きく変質してしまったことの効果にも注目する必要があるように思われる。

むしろ、現在の環境の下で、政策金利の予想の公表が金融システムに対してもたらすリスクとしてより重要なのは、結果的に長期金利を不安定化させかねない点ではないだろうか。先にみたように、市場は、FRBが公表する「予想」を「コミットメント」と理解しやすいが、他方で、FOMCメンバーは金融経済状況をみながら「予想」を変えていくであろう。しかも、こうした変化は連続的に行われる訳ではなく、経済見通しの公表と同じく四半期に一回という長めの間隔の下で行われる。こうした非連続的な変化が、局面によってイールドカーブの形状の非連続的な変化を促すことは十分に考えられる。政策金利の予想の公表は、市場の期待を安定化することで、長期金利のボラティリティを抑制することがもともと想定されていたのに、短期的とは言えむしろ不安定化させるリスクも持つとすれば何とも皮肉でもある。

Dual mandate

冒頭に見たように、FRBがコミュニケーション・ポリシーを検討しているとすれ、その「本丸」は、政策運営をFRBの目的(いわゆるDual Mandate)との関係でどう表現するかであると推測される。今回決まった政策金利の予想の公表も、実はこの点と深い関係を有している。つまり、 FOMCメンバーは、従来と同じく経済見通しを公表すると同時に、今後は、ゼロ金利解除の予想時期についても公表するからである。おそらく、こうした公表は従来と同じ「無記名」となるので、個々のメンバーの認識は詳らかにならないが、FOMCメンバーが全体として、「雇用と物価がどうなれば、ゼロ金利を解除しうると考えているか」は、少なくとも現状より明確に示されるし、経済情勢の変化を映じたその推移も(四半期毎ではあるが)追うことができるようになる。

このことは、短期的には、ゼロ金利解除時期に関する市場の予想を遅らせるかもしれない。なぜなら、FRBのこれまでの声明文は「少なくとも2013 年半ばまで」現状の政策を維持することを示唆しているが、これはFOMCメンバーの予想の分布の"tail"に近い部分を指しているかもしれないからである。一方、中長期的には、実際のゼロ金利解除を円滑に実施することにむしろ資する面もあろう。FRBがゼロ金利解除に先立つかなり以前から、ゼロ金利の解除時期だけでなく、その後の政策金利のパスも含む市場の期待を誘導しておけば、実際にFRBが政策変更の局面に立ち会った場合の様々なストレスを緩和することに繋がるからである。

これらの点は、政策金利の予想の公表をコミュニケーション・ポリシーとしてみた場合の効果と考えることができる。もっとも、こうしたメリットも、それは前2節で見たような潜在的な副作用との引き替えであることも忘れてはならないように思う。そして、両者のバランスを比べてみても、そこまで明確にどちらかに傾いている訳でもないように見える。

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