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人民元国際化に対応し始める東京金融市場

2011年12月29日

12月25日の日中首脳会談で、野田総理は「日中国交正常化40周年に際する日中『戦略的互恵関係』の一層の深化に向けた6つのイニシアティブ」を表明した(注1)。ここでは、そのうちの4番目に挙げられている「互恵的経済関係のグレードアップ」に関連して、日中双方から発表された「日中両国の金融市場の発展に向けた相互協力の強化」について見ることにする。

内容は、基本的に日中間の人民元国際化に関するものである。具体的には、

(1) 両国間のクロスボーダー取引における円・人民元の利用促進
 ・円建て・人民元建ての貿易決済を促進し、両国の輸出入者の為替リスクや取引コストを低減
 ・日系現地法人向けをはじめとする、日本から中国本土への人民元建て直接投資

(2) 円・人民元間の直接交換市場の発展支援

(3) 円建て・人民元建て債券市場の健全な発展支援
 ・東京市場をはじめとする海外市場での日本企業による人民元建て債券の発行; パイロットプログラムとしての、中国本土市場における国際協力銀行による人民元建て債券の発行
 ・日本当局による中国国債への投資に係る申請手続きを進める。

(4) 海外市場での円建て・人民元建て金融商品・サービスの民間部門による発展慫慂

(5)上記分野における相互協力を促進するため、「日中金融市場の発展のための合同作業部会」の設置(注2)

これらの合意点には、人民元国際化の流れの中で既に可能になっているものも含まれる(注3)。具体的には、人民元建ての貿易決済や中国本土への人民元建て直接投資は既に開始しており、いわゆるパンダ債(中国本土における人民元建て外債)もアジア開発銀行等の発行実績がある。

目新しいものとしては、第一に、日本政府による中国国債投資がある。既にマスコミでも大きく取り上げられているので詳しくは繰り返さないが、日本政府にとっては外貨準備の多様化につながるものである。中国側では、初めて先進国が人民元資産を外貨準備として保有することになることから、人民元国際化を進めるものとして歓迎する論調が見られる。

第二は、円・人民元間の直接交換市場の発展支援である。足元では、中国の外為市場で円と人民元を取引する際は、円-米ドル、米ドル-人民元の二つの取引を経なければならないが、円・人民元を直接取引できるようにして利便性を向上させる意図がある。

第三は、東京市場をはじめとする海外市場での日本企業による人民元建て債券の発行と海外市場における人民元建て金融商品・サービスの民間部門による発展である。既に、香港では人民元オフショア市場ができていることから、香港で人民元建て債を発行することは可能である。新しい点は、「東京市場をはじめとする」との部分である。

(1)にあるように、今後、人民元建て貿易決済が促進されて、日本で人民元が蓄積される素地ができれば、東京市場における人民元債発行や人民元取引も視野に入ってくる。現在、香港の人民元オフショア市場では、中国銀行(香港)が清算(クリアリング)銀行となっているが、東京市場で人民元取引を行う場合も同様の仕組みを作って清算銀行を置くことになるのか、あるいは、最終的には中国銀行(香港)につなぐ仕組みとなるのか、といった詳細が今後詰められるものと思われる。また、(3)では円建て債券市場の健全な発展支援にも言及しており、例えば、いま一つ発展の遅れているサムライ債市場における中国企業の起債等が考えられる。

将来的に、貿易・投資面において日本でも人民元の使用比率の上昇が予想される中で、東京金融市場でも人民元を扱う方向が示され、それが日中両国で合意された点は、東京国際金融センター構想の観点から重要であろう。また、日本企業にとっては、中国への進出形態が多様化する中で、米ドルに加えて人民元による貿易・金融取引という選択肢が増すことが期待できるわけであり、今後は、上述の各措置の具体化を見ておく必要がある。

(注1)6つのインセンティブとは、1)政治的相互信頼の増進、2)東シナ海を「平和・協力・友好の海」とするための協力の推進、3)東日本大震災を契機とした日中協力の推進、4)互恵的経済関係のグレードアップ、5)両国国民間の相互理解の増進、6)地域・グローバルな課題に関する対話・協力の強化である。
(注2)このほか、チェンマイ・イニシアティブの強化等について合意された。
(注3)人民元の国際化の経緯については、当コラム(2011年9月12日)参照。なお、人民元直接投資については、商務部が2011年10月14日に規定を発表した。

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