1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. FOMC:誕生日の政策判断

FOMC:誕生日の政策判断

2011年12月14日

はじめに

市場の注目が欧州に集中し、しかも先週後半の主要なイベントに疲労したためか、このところ米国の経済指標が堅調であったので"no-action"との予想が支配的であったためか、今回のFOMCへの関心は相当低かった。しかし、政策判断は議論の積み重ねによってなされる筋合いにあるので、今回の会合も今後の政策課題への対応におけるステップとなるはずである。そこで、本稿では、やや長い視点から今回のFOMCの議論を検討したい。

ポイント1:米国の金融経済動向

今回の声明文は、冒頭で、米国経済の現状が相応に堅調であることを指摘している。その一方で、世界経済の減速という外部要因に加えて、国内に関しても雇用や住宅市場が依然として弱いだけでなく、設備投資に減速感が見られるといった点を指摘している。このように、硬軟両材料のバランスが意識された表現となっており、「景気回復が幾分力を増した」という表現を用いた11月のFOMCから、さらに力を増しているとまでは言っていない面もある。

この点は、市場が、足許の堅調な経済指標を背景に景気の先行きにやや強気になっていたことと、微妙な違いを示唆している。もっとも、FRBからみれば、市場が景気の先行きに関する悲観論に陥った初夏から秋にかけても、一時的要因(日本の震災によるsupply chainの毀損と商品価格の高騰)が解消すれば、相応の回復は可能という見方を一貫して維持してきたのであって、悲観から楽観へと見方が振れたのは市場の方である、ということかもしれない。

その意味では、FRBが現時点でむしろ慎重とも言える見方を採っていることも、FRB自身のロジックにとって整合的である。つまり、第3四半期以降の経済活動が堅調にみえるのも悪材料の剥落に過ぎず、この先は、米国経済の抱える構造問題の逆風の下での回復というパターンに戻ることになる訳である。例えば、(先月はともかく)このところの数ヶ月は個人消費が底堅い動きを示したが、賃金の伸びはむしろ鈍化し、GDPベースの貯蓄率も低下した点だけでも、一段と強気になることを抑制している面があろう。

その上で、FRBにとって大切な課題は、欧州情勢による影響への政策対応である。この点に関しては、これまでは金融システムにおける contagionに焦点が当たっていた。本年中のBernanke議長による会見や講演を振り返っても、米国のMMFによる欧州金融機関向けの与信や米国の投資銀行によるソブリンCDSへのエクスポージャーに警戒を示す機会がみられた。さらに、今月初には、主要国の中央銀行との間でのドル資金スワップを強化することで、事実上、欧州金融機関の資金調達を支える措置を講じている。

しかし、今後を展望して同じように重要な焦点は、欧州の実体経済の減速が顕著になった場合への対応であろう。しかも、この点は金融システムの contagion防止より厄介となるかもしれない。なぜなら、第一に、欧州の実体経済が減速していく場合、財政緊縮とともに銀行与信の収縮が主因となるとみられる。しかし、バランスシート調整のペースを予想することが難しいだけでなく、de-leveragingが実体経済に与える影響を経済モデルに適切に組み込むことはハードルがなお高く、推計が難しいとみられるからである。さらに、第二に、金融面からの金融システム面では様々な危機対策のツールがあるが、実体経済面ではゼロ金利の下で残された政策手段は少ないからである。FRBは、今年の9月に導入したいわゆる「ツイストオペ」(Maturity Extension Program)について、明確な評価を示していないだけでなく、いわゆるQEについてはFOMCの中でも様々な見解が存在するように見えるだけに、次に政策措置が必要になった場合の議論は単純ではなさそうである。

ポイント2:政策意図のコミュニケーション

今回のFOMCについては、コミュニケーションの部分で何らかの"innovation"があるとの期待があった。前回(11月)のFOMC議事要旨を含め、FRBは、政策意図の明確化について検討してきたことを度々示唆しただけに、こうした期待ももっともである。

市場では余り意識されなくなったが、Bernanke議長は、議長就任前には、経済主体の期待を安定させる手段としてインフレ目標を支持していたし、その後もオプションの一つとして言及している。しかし、FRBは"dual mandate"として最大雇用の実現を政策目的として背負うだけでなく、現在は大量かつ長期の失業が焦点となる中で、インフレ目標の導入は、物価安定のみを指向する印象を与えかねず、その実現はかなり困難である。実際、前回(11月)のFOMC議事要旨にもそうした見方が示唆されている。

こうして、現在の声明文に示されている通り、FRBによる「時間軸政策」の解除条件は、経済資源の稼働率(設備稼働率は既に長期平均の近傍にあるので、実質的には雇用を意味する)とインフレという"dual mandate"に即したものとなっている訳である。

その上で、FRBがコミュニケーションの明確化として意識しているのは、同じく議事要旨が示唆するように、これらの両条件を具体的な数値として示すことである。この点は日本の市場関係者にはイメージしやすい。日銀が行った「時間軸政策」では、CPIインフレ率(除く生鮮)が安定的にゼロ以上という解除条件を掲げていた。

FRBも、暗黙には、現在の「時間軸政策」の解除条件を数字で示しているとも言える。今回の声明文でも維持したように、FRBは、経済資源の稼働率とインフレの見通しを考慮すると、2013年半ばまで超低金利政策を続けるとみられると述べる一方、2013年の経済見通しを公表しているからである。前回(11月)のFOMCによる見通しによれば、2013年には失業率が8%台前半、PCEインフレ率が1%台後半にあるとの見方がFOMCの大勢である。

しかし、8%台という失業率は、FOMC自身が長期均衡とみる5%台後半と比べて余りに高く、仮にforward lookingな政策運営に戻るとして2014年の失業率を考えても、FOMCの見通しは7%台前半を中心に分布するなど距離がある。理論的には、 Yellen副議長らが示唆してきたように、構造失業率が上昇したという理由で、従来より高い失業率が「最大雇用」と主張することも可能かもしれないが、推計の精度を考えると、コミュニケーションを難しくし、経済主体の期待の安定化という本来の目的に逆行しかねない。

前節に見たように、米国経済にダウンサイドリスクがあるのであれば、また、世界景気の鈍化によって商品価格の上昇リスクが減退したのであれば、FRBはこの議論を急ぐ必要はないし、アプリオリに検討期限を設けるといった対応をせずに、より慎重に考えるべきではないか。

おわりに

今回のFOMCの開催日(12/13日)は、Bernanke議長の58回目の誕生日であったと報道されている。Bernanke議長が来年の誕生日をより心安らかに迎えられるようであれば、それは2012年が米国にとってもより良い年であったことを意味するのであろう。

このページを見た人はこんなページも見ています