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3年ぶりに引下げられた中国の預金準備率

2011年12月02日

中国人民銀行は11月30日、預金準備率の0.5%引下げを発表した(12月5日実施)。預金準備率の引下げはほぼ3年ぶりであり、実施後の預金準備率は大銀行で21%となる。預金準備率は、今回の引締め局面において2010年以降、12回(2010年6回、2011年6回)引上げられていた。

2008年末以降の行き過ぎた金融緩和の軌道修正は2010年から始まり、今年の夏場までインフレ抑制を目標に金融政策は引締め一辺倒であった。その後、金融引締めの効果が漸く現れるにつれて、8月初に選択的な金融緩和(「定向」緩和。農業・農村・農民、中小企業向け、保障性住宅向け等の特定領域に対し、融資条件をある程度緩める)が打ち出され、さらに、10月下旬の国務院常務会議において、マクロ経済政策を「適時・適度に微調整する」ことが発表された。これに前後して、銀行融資のペースの加速、若干緩めの公開市場操作等が見られ、今回の動きも、この流れをくむものと見られる。一連の動きの背景には、CPI等のインフレ率が7月頃をピークに低下し、経済成長も鈍化傾向にあり、マクロ経済調整策の当初の目的であった景気軟着陸の形が見えてきたことがあろう。

預金準備率の引下げについては、預金準備率がこれまで異常なまでに高く、いずれ引下げの必要があったことが底流にある。加えて、10月に人民銀行の外為勘定がほぼ4年ぶりに資金揚超となったことも、今回の準備率引下げを後押ししたとも考えられる。これまで、人民銀行は経常黒字や資本収支の黒字により流入してくるドルを買い、対価として市中に人民元を放出していたが(撒超)、10月にはこれが逆転してドル放出・人民元吸収(揚超)になった可能性がある。

長年、人民銀行は市中に放出した人民元の一部を、預金準備率を引上げることで準備預金として「凍結」させ、過剰流動性の問題を緩和してきた。今後、国際収支の構造が変化し、国際収支の黒字が減る(或いは赤字になる)ことになった場合、こうした必要は小さくなるか無くなる。そして、市中の流動性が不足する場合は、これまでとは逆に人民銀行は預金準備率を引下げることで市中に流動性を供給することが可能である。この新たな展開が始まったのかどうかを判断するには、今後の外為勘定と預金準備率の動きを注目する必要がある。

今回の預金準備率引下げは、これまでの金融政策の基調は変わらない中での、選択的緩和・微調整と位置付けられよう。今後の金融政策を見る上では、やはり庶民の不満の大きい不動産市場の調整が注目点である。当局の意図は、明らかに行き過ぎた不動産開発・価格上昇の抑制であると見られる。金融引締めを含む当局の不動産抑制政策の効果は、一部不動産業者の資金繰り困難やそれに伴う販売価格引き下げ等の形で、最近になって漸く現れてきたところである。当局は、不動産業者・物件がある程度、選別・整理され、市場が正常化するまで本格的な緩和には転じたくないのではないかと思われる。一方で、これまでも本コラムで指摘したように、不動産・土地価格が大幅に下落して地方財政が立ち行かなくなることは避けなければならず、金融政策の運営が難しいことに変わりはない。

中国経済のダウンサイド・リスクとして、不透明な欧州経済情勢が挙げられる。これは、最近の中国景気悲観論台頭の一因にもなっている。足元での中国景気の減速は明らかであるが、欧州情勢等の影響でかなり失速しそうな場合も、つまり、失業増加等、社会安定を揺るがす程度まで失速するリスクが出てきた場合も、不動産購入制限の緩和等のミクロレベルの政策、上述した預金準備率操作や財政刺激等のマクロ政策の両面で、先進国に比較して政策発動の余地が大きいことが指摘できる。

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