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経営統合する東証と大証 ~その意義と今後の課題~

2011年11月24日

2011年11月22日、東京証券取引所グループ(東証)と大阪証券取引所(大阪)が、2013年1月をメドに新たな持株会社「日本取引所グループ」の下で両社の経営を統合すると発表した。

株式の現物取引で大きなシェアを占める東証と日経225先物などデリバティブ取引に強みを有する大証が経営統合すれば、現物とデリバティブの両方に強みを持つバランスの取れた取引所グループが誕生し、企業規模の拡大とも相まって経営の安定性が高まるだろう。取引システムの統合、デリバティブ取引における清算の共通化、自主規制機能の共通化などによる経営の効率性向上も期待される。

また、従来、とりわけ株式市場における上場監理などの自主規制を行ってきた東証に対しては、その「お役所的体質」を揶揄する声も少なくなかったが、上場会社としての経営ノウハウを蓄積してきた大証と組織的に融合していくことで、企業風土が前向きな方向へ変化することも期待できる。

ちなみに、取引所会社が統合すると上場会社や投資家にとってどのようなメリットがあるのか、気になる向きもあるだろう。この点については、少なくとも短期的にみて、上場会社や投資家が大きな変化を感じる可能性は小さい。ただ、経営基盤が安定化し、効率を高めた取引所が、中長期的にみて、そうでない取引所よりも上場会社や投資家にとって使い勝手の良い優れた市場を提供して行ける可能性が高いことは疑いないと言えるだろう。

他方、東証と大証の統合にあたって、懸念される点が全くないわけではない。最大の懸念は、国際的な競争プレッシャーが存在するとは言うものの、国内では当面の有力な競争相手がなくなることで、経営規律が弛緩するという可能性が否定できないことである。この点については、統合会社の経営陣の強力なリーダーシップの発揮で懸念を払拭してくれることを期待したい。

もう一つの大きな課題は、国際戦略の展開である。世界の取引所は、ニューヨーク証券取引所などを運営するNYSEユーロネクストがドイツ取引所との統合を図り、新興の電子取引所も欧米間で市場統合をめざすなど、合従連衡を繰り広げている。新生日本取引所グループが、世界の取引所との厳しい競争にどのように対応していくのかは現状では不透明である。何も提携や買収などを派手に打ち上げるだけが能ではないが、真の競争力強化につながる有効な戦略を早期に明確化していくことが求められる。

何しろ、統合後の取引所グループは、国内でこそ揺るぎないトップの地位を確保できる立場だが、国際的にみても文句なしにトップクラスの取引所だとは言い難いのが実情なのである。というのも、NYSEユーロネクスト、ドイツ取引所、ナスダックOMXなど世界の主要取引所の株式時価総額(その市場に上場している企業のではなく、取引所会社自身の)は、いずれも少なくとも5千億円以上、トップクラスは1~2兆円規模に達している。これに対して、時価総額1 千億円程度の大証が、今回合意された1対1.7の統合比率で東証と統合しても、時価総額は3千億円程度にしかならない。アジアでもシンガポール取引所や香港取引所は、これを大きく上回る規模なのである。

三つめの課題は、国内における総合取引所化の実現である。法規制や監督官庁を一本化する総合取引所構想は、今のところ迷走と言わざるを得ない状況に陥っているようだが、政治や行政の動きいかんにかかわらず、統合後の取引所グループが商品先物をも取り扱う総合取引所となっていくことは経営戦略上の重要テーマである。既存の東京工業品取引所等との連携をどうするかといった観点を含め、どのような方策を講じていくのかが注目される。

今回の統合合意をめぐっては、いくつかの批判的な指摘もなされている。まず、いったん東証がTOBで大証を子会社化した上で合併するという統合の方法に対して、複雑すぎる、裏口上場ではないかといった見解もある。

この点については、代替案として考えられる東証が株式を上場した上で大証と合併するという方法は、統合比率の算定が容易だといったメリットはあるものの、統合完了までに時間がかかり過ぎる。そもそも、上場後の合併を前提とする会社の上場を認めて良いのかという問題もある。他方、大証が東証の株式を取得するTOBという方法もあり得るが、規模の大きい東証が買収対象になることへの抵抗があったのだろう。今回合意された方法は、最善のものかどうかはともかく、両社の経営陣、株主が納得できる妥当な方法であったと言える。

また、「裏口上場」とは、上場審査に耐えられない非上場会社が、審査を潜脱する手段として上場会社との合併や買収を行うものを指す。その場合、本業と無関係の会社を買収し、上場後に売却するといったことすら行われるのだが、今回のケースは全く違っており、「裏口上場」という批判は当を得ないものである。

経営統合へ向けた協議が初めて報道されたのが3月で、合意発表が11月だったから時間がかかり過ぎだといった批判もみられた。しかし、そもそも本来は、こうしたM&Aの動きは水面下で進むのが通例で、いわば衆人環視の下での交渉は極めて異例であったと言わざるを得ない。3月の報道直後には東日本大震災という想定外の事態も起きた。そうした中で、半年強の交渉で合意が取りまとめられたことは、むしろ高く評価されて然るべきではないだろうか。

今後、公正取引委員会による独禁法の観点からの審査など越えなければならないハードルも残されているが、円滑な経営統合の実現と、パワーアップした取引所会社の下での市場の活性化を強く期待したい。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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