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オリンパス事件とコーポレート・ガバナンス

2011年11月11日

オリンパスが、過去の有価証券投資で蒙った損失を隠蔽するために、不自然な企業買収を行っていたとされる問題が、日本の株式市場を大いに揺るがせている。現時点では、会社が設置した第三者委員会の調査結果もまとまっておらず、事件の全容が明らかでないだけに、この問題について立ち入ったコメントをすることは時期尚早だろう。

それでもこの事件を取り上げなければならないのは、関連報道を見ていると、些か気になる点があるからだ。それは、この手の事件の再発を防止するために、取締役会の構成等に関する会社法の規制や金融商品取引法の情報開示制度を見直すべきだといった見解が一部にみられることである。具体的には、会社法を改正して社外取締役の選任を義務づけたり、金融商品取引法を改正して企業買収に関する情報開示規制を強化すべきだといった主張がなされているようである。

このような問題を引き起こし、しかも経営トップ層の複数の者が不正に関与したことを認めているとされるオリンパスについて、コーポレート・ガバナンス(企業統治)上の問題が何もなかったと強弁することは許されないだろう。また、おりから大王製紙の経営トップが関連会社から多額の資金を私的に借り入れていたという問題が明るみに出ており、オリンパス一社に限らず、日本企業のコーポレート・ガバナンス全般に対して、批判的な視線が向けられていることも理解できないわけではない。

歴史を振り返れば、企業法制や市場法制の大きな改正が、市場を揺るがせた不祥事・スキャンダルを契機に行われた例は決して少なくない。今回の事態が、従来の企業法制、市場法制に内在する何らかの問題点を浮かび上がらせたと考え、その点を見直そうとすること自体は、決して間違った方向性とは言えないだろう。

しかし、「急いては事をし損じる」というものである。世間の注目を集める大きな事件であるだけに、「早急に再発防止策を」と焦る心理も分からぬではないが、ここはまず、事態を冷静に分析し、真の問題点を抽出する努力が求められるのだ。

例えば、今回の問題を見ていてすぐに気がつくのは、オリンパスという会社は、取締役15名中3名が社外取締役、監査役4名中2名が社外監査役という経営体制をとっており、少なくとも表面的には、社員からの昇格者ばかりで固めた内向きの役員会という、しばしば日本企業の典型的な姿とされるものとは大いに異なっているという事実である。しかも社外取締役は2005年以降一貫して選任されている(2008年までは2名、それ以降3名)。過去の社外取締役には外国人(ちなみにノーベル賞学者である)も含まれる。不正疑惑を指摘した結果として解任されてしまったとはいえ、同社が外国人の社長を選任していたという事実も忘れてはならないだろう。むしろ問題は、そうした一見先進的なコーポレート・ガバナンスのあり方を実践していた会社において、これだけの大問題が発生したという点にある。

この点だけを見ても、少なくともオリンパスの事件を教訓として、「企業不祥事を防止するためには社外取締役の選任を法令で義務づけることが有効だ」と結論付けることには疑問を抱かざるを得ないだろう。念のために言っておくが、筆者は決して「社外取締役の選任を法的な義務とすべきではない」と主張しているわけではない。単にオリンパスの事件は、社外取締役の存在が不祥事の防止に役立つという主張を補強するものとは思えないという事実を指摘し、あまり性急に結論を出すべきではないと言っているだけである。

ちなみに、大王製紙というもう一つの不祥事を引き起こした会社を見ると、社外監査役が3名選任されているものの社外取締役は置かれていない。しかし、だからと言って、同社の問題が、社外取締役が選任されていれば防止できたのかという問いに、自信を持って答えを出すことは難しいだろう。

また、二つの不祥事が時を同じくして明るみに出たことで、問題を「日本企業の体質」といったことに安易に一般化してしまう愚も避けなければならない。例えば、オリンパスの事件については、かつての山一證券やカネボウの不正会計事件との共通性が指摘されているが、他方で、米国のエンロンが行っていた不正会計とも一脈通じるものがあるようにも思われる。企業「オーナー」による会社資金の不正流用という点では、大王製紙の問題は、英国におけるコーポレート・ガバナンス改革の契機となった1991年のロバート・マックスウェル氏による企業年金資金流用事件を思い起こさせはしないだろうか。大変残念なことではあるが、企業不祥事は日本固有の問題では決してないのである。

もちろん筆者は、今回の一連の事件を何らの制度見直しにも結び付けるべきでないなどと主張しているわけでは全くない。冷静に事態を見極めた結果、明らかに制度的な手当てが求められる点がはっきりしてくれば、当然法改正を含め、速やかな対応が求められるものと考えている。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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