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FRBによる金融政策の現状維持-バーナンキ議長の記者会見

2011年11月04日

はじめに

FRBは、今回(現地11/2日)のFOMCで金融政策を現状のまま維持したが、その議論は長い目で見て大切な内容を含んでいたように思われる。今回は、経済見通しの改訂にあたるため、バーナンキ議長による記者会見が行われたので、そこでのやり取りを踏まえながら、主要なポイントを検討しておきたい。

ポイント1:追加緩和の判断

今回のFOMCについては、見方は分かれていたが、追加緩和を予想する向きもみられた。こうした期待は、経済見通しの下方修正が確実視されただけに合理的であった。実際、GDP成長率の見通しは、既に非現実であった本年分(6月時点では2.7~2.9%)が大きく修正された(1.6~1.7%)だけでなく、2012~3年も0.8%ポイント程度の大幅修正となった。また、同時期の失業率見通しも0.7%ポイント程度引上げられた。実際、今回の記者会見では、数多く(20問中8問)の質問が追加緩和に踏み切らなかった理由、ないしは、追加緩和を行う条件を質すものであった。

もちろん、FRBからみれば、失業率が低下しない限りは新たな政策対応を繰り出し続けなければならないという事態は、自身の見通しが示すように失業率は中期的に高止まりする可能性が高い以上、避けたいと思うのも当然であろう。また、2012年のGDP成長率見通しは2.5~2.9%と潜在成長率の近辺であるし、その後は成長率が緩やかに加速するとみているので、追加緩和の必要性を否定することもかろうじて可能な状況にある。

それでも、金融政策の現状維持を決めた理由について、バーナンキ議長が第10番目や第14番目の質問への回答で示唆し、あるいは声明文が示すように、足許の経済活動が好転したことを過度に強調するのは必ずしも適切でないように思える。ついでに言えば、バーナンキ議長が、第1番目の質問(CNBCの Liesman氏)に対して、物価が安定していたことを理由に大規模な金融緩和への批判は不適切であると説明したことも、必ずしも適切でないように思える。多くの批判が念頭に置いているのは、将来の中長期的なインフレである。FRBは、これまでpre-emptiveに行動することの重要性を強調し、実際にそれを実践してきた訳であり、この点に関する理解を市場との間で共有してきた。だからこそ、市場には、金融政策が対象とする中期の経済情勢について見通しを引き下げることが確実視される中で、追加緩和への期待が生じた面は少なくない。

政治的要素による政策運営への影響という懸念を払拭する上でも、FRBは上記のようなpre-emptiveな政策スタンスを維持している点を強調しておくことを望まかった。また、スタンスに変更がない中で追加緩和を見送った理由に関しても、例えば、"QE2"の効果に関する"Stock view"のように、既存の政策措置による持続的効果を示すといった対応がなされても良かったかもしれない。

ポイント2:コミュニケーション・ポリシー

今回のFOMCに関しては、コミュニケーション・ポリシーが2つの意味で重要な位置を占めていた。

第一に、短期的な意味での市場との対話である。FOMCに先立つ時期には、イエレン副総裁やダドリー ニューヨーク連銀総裁らが、講演の中で景気回復の遅延を強調し、国債買入れの再開やMBSの買い増しを有力なオプションとして示していた。これらが、論者がバーナンキ議長に近いという見方と相俟って、追加緩和への期待を導いた面がある。FRBとしては、結果として長期金利を抑制したのであれば、コミュニケーションとして成功という面もあろうし、追加緩和への期待も市場の勝手な反応とも言える。

ただ、金融市場の様々な領域にボラティリティの源泉が存在している現状を考えると、FRBの政策の先行きに関する不透明性を増しかねない要素をどうすべきかという課題は残る。特に、バーナンキ議長がFOMCの議事を「民主的に」運営しているとされる点や、前回はいわゆる"operation twist"への反対が多かったのに、今回は反対票が大きく減るといった投票行動の理解も含めて、FRBにとって市場との対話に関する課題の一つと言える。

第二に、中長期的な意味での政策の透明性や説明責任の向上である。バーナンキ議長が、第3番目や第16番目(FT紙のHarding記者)の質問への回答で説明したように、今回のFOMCではコミュニケーション・ポリシーの強化に関する議論-中でも、時間軸政策の条件の明確化と名目GDP目標の可能性に関する議論-が行われたようである。

FRBによる時間軸政策は、「2013年の中頃にはexitの条件が満たされると予想される」という、やや込み入った条件を伴っている。これが直ちに問題になっている訳ではないが、FRBの見通しに沿って緩やかに経済が回復すれば、徐々にexitの時期が焦点となり、その解釈を巡って短期債利回りが不安定化することが考えられる。その意味で条件の明確化は自然な発想である。また、名目GDP目標に関しては、先に見たように、今後の政策運営が失業率に過度に縛られるのを避ける上で意味のある選択肢となりうる。

ただ、両者ともに、FRBの政策目標である"dual mandate"の一角をなす「最大雇用の達成」との関係で難しい問題を抱えている。時間軸政策に関しては、第5番目の質問者であるWSJ紙の記者が指摘したように、FRBが今回改訂した見通しに基づくと、2013年には失業率が8%近辺で金融緩和からexitすることを意味する。おそらく、失業率8%でも「最大雇用」なのかという厳しい議論になるリスクがある一方、FOMCによる見通しが示唆するように「長期的」な失業率であるZ%近辺を達成するまで exitしないと条件付けることは、経済活動のその他の面や、金融システムの状況との関係で不要なリスクを抱え込むことになりかねない。

同様に、名目GDP目標に関しても、既にFRBは暗黙のうちに物価安定に関する目標を有している-今回の記者会見でも、バーナンキ議長は2%以下と発言している-ことを考えれば、新たに考える必要があるのは実質GDP成長率である。その上で、"dual mandate"が存続し続けるとすれば、結局、FRBは目標とする実質GDP成長率と「最大雇用」との関係を説明することを求められるであろう。これは、平時であっても難しい責務であろうが、ましてや、バーナンキ議長が会見でも強調した労働市場の構造問題が存在する下で、この点について説得的な議論を示すことは、コスト・ベネフィットの面で必ずしも見合わないことのように思える。

おわりに

今日のバーナンキ議長は、以前の記者会見に比べて神経質な印象もあり、かつ、より慎重に回答していた印象を受けた。欧州問題だけでなく、様々な意味で米国市場自体にも不安定な要素があることを意識したのかもしれないが、"double dip"のような過度な悲観論にきちんと対抗する意味でも、もう少し明るい表情を見せて欲しかったようにも思えた。

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