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EUサミットでの合意に関するfirst impression

2011年10月27日

全体の印象

26日の夕方から開催されたEUサミットは、結局、27日の早朝までかかって、危機対策に関する3本柱-金融機関の資本増強、ギリシャの債務負担の軽減、EFSFの能力拡充-に関する基本合意を発表するに至った。

23日に開催された同会合で結論が出ず、26日に予定されていたEcofinがキャンセルされただけに、包括的な合意成立への期待はかなり後退していた。また、これらの柱は相互に依存し合っている-ギリシャの債務負担の軽減の一環となるPSIによって金融システムが動揺しないようにするためには金融機関の資本増強が重要であるし、EFSFの能力拡充はこれをサポートするのに加え、金融機関のソブリンリスクを減少させて金融システムの安定に資する-ことを考え合わせれば、基本合意の発表にこぎ着けたことの意味は決して小さくない。

ただ、3本の柱のいずれも、詳細はこれからの検討に委ねられている。特に、PSIの改訂やEFSFの拡充には、各々、欧州金融機関や海外の投資家(外貨準備などの公的部門も含まれる)との調整が必要である。広く報道されているように、前者ではEFSFによる信用補完の程度が、後者に関しては、 EFSFが新たに設立するSPVの資金調達条件が、いずれもポイントになるとみられる。

その意味では、冷静な市場関係者が予想していたように、今回は重要なマイルストーンであるが、通過点に過ぎないとも言える。

欧州金融機関の資本増強とEFSF

3本柱のうちで、最も具体的内容を伴っていたのは欧州金融機関の資本増強であるが、2012年6月末までにCore Tier1で9%の水準を求めることや、Core Tier1については、本年7月に公表されたストレステストの際の定義を援用することなど、事前に報道されていた通りであり、それ自体がサプライズという訳ではない。

その上で、欧州金融機関による資本増強の調整役を担うEBAから新たに開示された情報は、(1)資本増強を求める対象となる金融機関のリストと、 (2)各国別の金融機関による自己資本の要増強額の内訳である。つまり、全体の要調達額が約1000億ユーロに達するとの見方は既に広く出回っていたが、その内容の一部が明らかになった訳である。

このうち(1)については全体で70先あり、本年7月に結果が公表されたストレステストの対象先(91先:Dexiaを含む)に比べて少ない。この点についてEBAは、Methodological Noteの中で、"small non cross-border banks"を除いたと説明しており、つまり、欧州のシステミックリスクの顕在化を防止するという観点から選択したことを示唆している。これ自体は極めて適切な考え方である。もっとも、BIS統計やストレステストの結果自体が示すソブリンリスクの分布状況を念頭に置いた場合、例えば、今回の70先の中にドイツの金融機関が13先も含まれるといった点は、ストレステストの際の対象先の選択に係る考え方のばらつきという問題を引きずっているようにもみえる。

自己資本の要調達額が具体的に明らかになってきた一方で、政策当局のサポートについては、多くの不透明性が残されている。欧州主要国の政治家のみならず、各国当局や中央銀行の関係者が繰り返し強調してきたように、金融機関には第一義的には市場で増資することが求められており、この点に関する理解は共有されているように見える。もっとも、European Council(EC)による公表文が強調するように、当局側としては、市場の増資が難しい場合、ないしはそれと同時に、配当や報酬といった社外流出を抑制することを求めているが、この点は公的当局が実際に資本注入を行う場合であればともかく、そうでない状況で実行を求めていくことには難しさが残る。

欧州金融システムの視点

公的当局が資本注入を行う場合のEFSFと母国当局の各々の役割や相互の関係についても、現時点では必ずしも明らかになっていない。今回の公表内容だけでなく、7月21日の合意内容なども併せて考えると、EFSFはSPVの設立とそこでの市場借入れ(レバレッジの活用)を通じて資金規模を拡大(公表文によれば、全体で1兆ユーロ)した上で、各国の金融機関に対して公的資金を注入する母国当局を資金面からサポートするというイメージが想定されているようだ。
-レバレッジの活用を巡る議論については、拙稿「「資本(エクイティ)の論理の復活に向けて」(「次世代金融ビジネスの潮流2011」(2011年4月:野村総合研究所刊に所収)をご参照下さい。

ここで重要な点として、実際に資本注入を行う役割は母国政府が果たすとしても、資本注入の適否に関する判断に、少なくともEBAやEcofin、 ECBのように欧州の金融システム全体をカバーしている組織が関与することであろう。そもそも、資本増強を行う目的が欧州金融システムの安定にある以上、こうした視点を重視することは自然である。それだけでなく、もし、こうした判断を各国当局の裁量のみに委ねるとすれば、財政的に弱い国の当局が資本注入を躊躇する事態も招きかねない。欧州危機を見る限り、財政状態の悪化した国ほど、金融機関の強化が望まれることは明らかである。

今回の合意内容には、欧州金融システムの安定が重視されていることを窺わせる点も含まれる。それは、欧州金融機関に対する公的債務保証の復活に関する部分である。注目される点は、ECの公表文が、再開される措置について、各国がそれぞれに導入し運営するという事態を避けることの重要さを指摘している点である。欧州のように各国が密接に連関する金融システムの下で、本措置をまちまちに導入すれば大規模な資金シフトを招きかねない点は、既に確認済みである。上に見た資本注入の具体的な運営でも、こうした視点を維持することが望まれる

最後に最も重要な課題を挙げておくと、各金融機関が自己資本比率の改善を大幅な資産圧縮によって達成しようとした場合に、当局としてどう対処するかということである。ECの公表文やEBAのFAQも認めているように、credit crunchによって経済活動が一段と抑制される事態を招くのは本意ではなかろう。これは、日本と同じく銀行与信への依存度が高い欧州では重要なポイントである。一方、マクロ的には、欧州の金融機関の資産規模は2007年以降も(アイルランドなど一部を除いて)横ばい程度の動きを示しており、何らかの意味でde-leverageが求められていることも事実である。さらに他方で、金融機関の立場に立てば、配当や報酬の抑制を可能な限り回避したり、公的当局による自己資本注入に伴う経営への介入を避けたりしようとする点で、資産圧縮のインセンティブはむしろ大きい。すなわち、欧州当局には、マクロのde- leverageを中長期的に進めつつも、金融機関のインセンティブと上手くつきあいながら実体経済への影響を防ぐという、マクロプルーデンスの意味での難しい課題が待っている。

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