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中国における地方債の自主発行

2011年10月24日

地方政府への財源付与へ一歩踏み出す

中国財政部(日本の財務省に相当)は10月17日「2011年地方政府の債券自主発行の試行弁法」を発表した(即日実施)。これにより、試行地域に選ばれた地方政府は、国務院が認めた金額内で自ら起債できることになった。今回は、試行地域として、上海市・浙江省・広東省・深セン市の4地方政府が選ばれた。2011年は3年債と5年債が発行され、発行利率は、新発国債や市場金利を基準に引受・入札方式を用いて決められる。

地方政府は原則的に均衡財政を義務付けられており、これまでは、例外として中央政府(財政部)が代理発行する地方債による資金調達(2011年は 2000億元)がなされてきた。しかし、実際には、地方政府が「融資平台」といった形を通して負債を膨らませてきたことは、以前このコラムでも見た通りである(注1)

今回は「自主」発行と言っても、金額は国務院が認めた範囲内であり、また、元利返済は財政部が代行するため、実態的には国債発行とあまり変わらないものと思われる。ただし、従来から課題となっていた地方政府への財源付与の方向にさらに踏み出した点は重要である。

マクロ経済調整策の自由度とも関連

昨年来、中国は、インフレ加速や不動産バブルの拡大を抑制するため、金融を引締めている。銀行の預貸比率等の管理が厳しくなる中で、不動産信託商品の銀行での代理販売、委託貸付、商業手形を利用した資金調達、インターネット上のP2P(個人対個人)による資金貸借、民間貸借と呼ばれるインフォーマル金融等、オフバランスの取引や法律上のグレーゾーンでの金融取引が増えたため、引締めの効果が現れるまで時間がかかった(注2)。ただし、最近になり、インフォーマル金融から融資を受けていた企業のオーナーの夜逃げの増加が報道される等、ようやく金融引締めが行き渡ってきた。不動産市場にも陰りが見られる。

ただし、マクロ経済調整策は、今後難しい局面を迎えると思われる。不動産バブルの抑制は重要であるが、それが行き過ぎて不動産・土地価格が大幅に下落すると、土地譲渡収入に大きく依存している地方政府の財政問題の悪化につながるからである。このため、今後のマクロ経済調整策は、不動産業界の一部を淘汰しながら不動産市場をある程度調整する一方で、不動産・土地価格の大幅な調整は避けるという、難しいかじ取りを迫られよう。

今後、地方政府財源の一つとして地方債が使われることになれば、地方政府の土地依存財政が改善することが期待できる。そうなれば、マクロ経済調整策は不必要なまでに不動産価格に注意を払わなくて良くなり、言いかえれば、マクロ政策運営について不動産投機筋から足元を見られることは少なくなろう。

望まれる本格的な地方債

将来的に必要とされるのは、本格的な地方債である。今回の試行における国債のような地方債が、多く自主発行されることになれば、単に「融資平台」等の地方政府債務問題を新たな地方債の名の下に、中央財政の負担につけかえるにすぎなくなってしまう。本格的な地方債発行に向けては、地方債の格付け、その前提となる地方政府の財政状況についての情報開示が求められることになる。これまで「融資平台」等を使用することで、外からはよくわからなかった地方債務を透明化すること、また、地方債発行により資金調達とその用途に対するモニタリングが働きやすくなること等、地方財政の透明化・健全化が期待できる。この実現には、なお相当な時間がかかると見られるが、今回、地方政府が自ら起債する道を開いた点は、今後の展開も合わせ注目に値しよう。

(注1)2011.07.04「 明らかになった中国の地方政府債務の状況」参照。
(注2)これらのオフバランス取引等については、当コラム2011.08.08「最近の中国の金融政策・金融情勢について」、「金融ITフォーカス」11月号(11月1日発行予定)参照。

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