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詳細が明らかとなった「ボルカー・ルール」

2011年10月14日

さる10月12日、連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする米国の銀行監督当局と証券市場を監督する証券取引委員会(SEC)が協力して作成した、いわゆる「ボルカー・ルール」の詳細を定める規則案が公表された。

 「ボルカー・ルール」とは、2007年から08年にかけての世界金融危機を受け、その再発を防止するために2010年7月に制定された米国金融改革法(ドッド=フランク)に盛り込まれた新たな規制である。その骨子は、銀行や銀行持株会社に対して、短期的な利ざや稼ぎなどを目的として自己勘定での証券売買やデリバティブ取引を行ったり、ヘッジファンドやプライベート・エクイティ・ファンドに投資したり、そうしたファンドを設定したりすることを禁じるというものである。ポール・ボルカー元FRB議長が提唱したため、その名を冠して「ボルカー・ルール」と呼ばれるようになった。

 「ボルカー・ルール」の狙いは、元本保証の付された預金を取扱い、万一経営破綻すれば金融システムを混乱させかねない銀行やその親会社である銀行持株会社がリスクの高い取引に手を染めることを禁じることで、金融システムの安定性を確保しようとすることにある。1930年代に導入され、1990年代末に撤廃されたグラス=スティーガル法(1933年銀行法)にあった銀行・証券分離規制とも一脈通ずる規制手法である。

今回公表された規則案は、法律の条文だけでは必ずしも明確でなかった、規制対象となる取引やファンドの具体的な中身を明らかにしようとしている。ところが、公表された規則案は、全体で298ページ、規則案本文の前に置かれた解説文だけで215ページという大部なものとなってしまった。もともと規制の導入自体に反対していた全米銀行協会は、「ごく単純な発想からかくも複雑な規制が生み出されてしまった」「これでは銀行が顧客サービスを低下させたり経済全般を悪化させたりせずに規制を守ることは到底できないし、当局も効果的な規制運用を行えないだろう」と強く反発している。

銀行による自己勘定取引やファンド投資を禁じるという「ボルカー・ルール」の発想の根底には、そうした取引や投資は銀行が本来提供すべき経済活動に必要な資金の供給という機能と関係がないという前提があるようにも思われる。しかし、金融市場の実際は、それほど単純ではない。

例えば、企業への融資は銀行の本来的なサービスだが、融資業務には貸出先の信用リスクという問題が常につきまとう。あるいは、銀行が国際的な送金サービスを行うためには外国為替のポジションを保持することが必要だが、そうなると、為替変動リスクを避けることはできない。そうしたリスクをヘッジする一つの手段が、信用リスクをヘッジするクレジット・デリバティブや為替変動リスクをヘッジする通貨デリバティブなどのデリバティブ取引であり、また、そうしたデリバティブを有価証券化した証券化商品への投資なのである。従って、銀行の自己勘定によるデリバティブ取引やファンドを含む証券化商品への投資を一律に禁じることは、銀行の適正なリスク管理をほぼ不可能にしてしまう。

ドッド=フランク法も、こうした点には配慮し、例えば、銀行の保有するポジションや契約から生じるリスクを軽減するために設計されたヘッジ取引を行うことは、自己勘定取引禁止の例外として許容されると定めている。そして今回公表された規則案では、より具体的にどのような取引が許容されるかを明らかにしようとして、取引の内容がヘッジ対象と相当な相関性を有するといったいくつもの判断基準を掲げた。また、銀行自身が法令を遵守するためのコンプライアンス・プログラムを整備することが重要だとして、そのための体制作りや記録の保全など手続き整備も求めている。

しかし、その結果として、「ボルカー・ルール」を実施するための規則案は膨大で複雑な内容になってしまった。しかも、どれだけ詳細な基準や手続きを定めても、そうした基準を満たすように定められた手続きを踏んで行われた取引が、真にリスク管理に資するものとなるのか、全く逆に銀行経営のリスクを高める「投機的」なものとなるのかは、事前に完全には知りようがない。円高を予想して長期の為替リスクをヘッジしたら、案に反して円安になってしまうというように、リスクをヘッジしたつもりでも、予想と全く異なる方向に市場が動き、結果的に「ヘッジ」に要したコストが収益力向上の足を引っ張ることも稀ではないのである。

更に言えば、どんなに細かなルールでも、実際の取引がルール上どのように位置づけられるのかをめぐっては解釈の余地が生じる。今回公表された規則案に対しても、膨大で複雑という批判がある一方で、あいまいで分かりにくいという指摘もなされているのである。

今後、3ヵ月間のコメント募集と、寄せられたコメントに基づく再検討を経て、2012年7月には正式な規則が施行される予定である。

金融危機に対する世論の怒りを背景に立法化されたドッド=フランク法だが、「ボルカー・ルール」に限らず、真に金融システムの安定性向上に資するのかどうか疑問が投げかけられている規定は少なくない。規制強化が監督当局や銀行のコンプライアンス部門の人員増と様々な手続きに伴うコスト負担だけをもたらし、再び世界的な危機が襲うことは防げなかったというような結末には陥って欲しくないものである。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
主席研究員
専門:証券市場論

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