1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. "Operation Twist"を巡って

"Operation Twist"を巡って

2011年09月22日

ポイント1:時間軸との組み合わせ

FRBは、今回のFOMCで"Operation Twist"の導入を決定した。メディアも市場も"Operation Twist"の導入に期待していただけに、内容に関する理解は共有されていたと思われる。具体的にFOMCが決めたことは、保有する3年以下の国債を売却する一方、その資金で6年から30年の国債を買入れることであり、その金額は2012年6月末にかけて4000億ドルである。

その効果を考える上で最も重要な点は、このオペが既に導入済みの時間軸政策の下で行われる点である。FRBが今回の決定に関して公開したFAQが説明するように、通常であればこのオペに伴う短期債の売却によって、イールドカーブの短期部分には上昇圧力がかかる。しかし、時間軸政策によって、その部分の金利は押さえ込まれることが期待される訳である。FRBによる時間軸政策がどの年限の金利まで押さえ込むことができるかは、金融政策の正常化に踏み切れるほど景気が回復するのは何年後なのかという点についてのFRBと市場の見通しに依存する。

このように時間軸政策の下で行われる"Operation Twist"には、景気見通しと政策効果との関係に興味深い面がある。FOMCの期待が裏切られ、不幸にも景気悪化が一層深刻化した場合も、時間軸政策+"Operation Twist"は強い効果を発揮すると期待されている。なぜなら、実質ゼロ金利の継続期間に関する市場の期待が一層長期化することで、中期の国債金利までが押さえ込まれると同時に、"Operation Twist"によって長期の国債金利も抑制されると期待されるからである。ただ、QE2におけるオペの実績を詳しくみると、主力であった4年~10年のオペの応札倍率は2倍強の付近を推移し、必ずしも良好ではない面があった。もちろん、米国景気だけでなく欧州情勢も含めて不確実性が増すなど、当時とは相場環境が異なる。しかし、NY連銀が公表したように、"Operation Twist"で買入れる国債の約2/3が6年~10年という市場流動性の高い領域である点には留意しておく必要もあろう。

一方、米国経済の現状を踏まえると「取り越し苦労」としかみえないかもしれないが、景気見通しが好転した場合の政策効果にも興味深い面がある。この場合、短期の国債金利には、実質ゼロ金利の継続期間に関する市場の期待が短期化することの影響と、"Operation Twist"で短期債を売却していることの影響が、ともに金利を上げる方向で効くことになる。そうなれば、景気回復期にイールドカーブがフラット化する状況も生じかねないので、景気回復への影響を回避する上で、FRBは時間軸政策と"Operation Twist"を解除するタイミングや順番を吟味する必要があろう。例えば、回復してきた景気を支えるために、"Operation Twist"による長期国債の買入れを継続しようとすれば、短期債の売却による短期金利の上昇圧力を抑制するため、結局は時間軸政策も維持せざるを得なくなるかもしれない。しかし、景気回復への期待が強まるなかでFRBが金融緩和を維持しようとすることが、長期金利にどのような影響を与えるかについては慎重に考える必要もあろう。

ポイント2:政策手段の応用

仮に、ポイント1で述べた懸念が払拭されたとすれば、時間軸政策+"Operation Twist"は、景気後退期に国債のイールドカーブの全域を抑制することが期待されるという、強力な政策手段をFRBに提供する。そのこと自体が、実質ゼロ金利の状況の下で選択肢の限られたFRBにとって望ましいことであるのは言うまでもない。ただ、強力であればあるほど、FRBは「勝者の災い」に陥りやすく、将来にわたって微妙な問題を投げかけているようにも思われる。

いわゆるQE2に関しても、FRBが昨年11月から本年6月に買入れた国債の総額約7700億ドルは、その間に発行された国債の総額とそう大きく違わないため、QE2が結果的には国債管理政策に寄与したとの見方が存在する。今回も、米国財務省が市中発行する国債について期間の長期化を図ってきている点を考えると、"Operation Twist"による長期債の買入れにも、QE2と同様な解釈が生じうるとみられる。

筆者は、このようにFRBによる国債買入れと財務省による国債管理政策が整合的に行われることを、アプリオリに否定すべきであるとは思わない。ただ、それが不安定な政治状況の下で行われるとすれば、やはり話は別であるように思う。広く報道されているように、米国の一部の有力な政治家は今回の FOMCの直前に追加緩和を思いとどまるように求める書簡をBernanke議長に送付した。良き時代であれば新興国に関するIMFのカントリーレポートに出そうなことが実際に米国で生じたことは衝撃的ではあるが、米国に限らず、いまや先進諸国の中央銀行は実際問題としてこうした環境に置かれている。従って、FRBによる今回の対応が成功すると、米国に限らず各国では、財政状況が一層悪化した場合に、国債金利の上昇を防ぐ目的で、中央銀行に同じような政策対応を求めるインセンティブが生じうる。もちろん、その場合の政策効果が、先に述べたものとは大きく異なるものとなるリスクは決して小さくない。

前回の記者会見でのTrichet総裁や今年の国会答弁での白川総裁による指摘の通り、中央銀行の政策目標を決めるのは議会である。従って、中央銀行は、議会が与えた枠組みの中で政策を粛々と運営していく以外にはない。また、議会は最終的には国民の意思を反映するといっても、数年に一度の選挙で中央銀行が焦点になるとは考えにくい。その意味では、現実的な意味で政策の適切さをチェックし、必要な場合に政策の適正化を促すことができるのは市場だけである。筆者は、この意味での市場機能を強く信頼したいと思う。

ポイント3:住宅対策

メディアの報道には、今回のFOMCが、FRBの保有するAgency債とAgencyMBSの償還金を国債でなくAgencyMBSの再投資に向けると決めたことを意外と受け止めるものがみられる。

しかし、本シリーズの読者はご承知のように、筆者は、住宅問題の緩和が米国の景気回復に不可欠であるし、負の連鎖(住宅価格下落→家計消費の低迷→ 雇用低迷→住宅与信の不良資産化→住宅価格下落)を断ち切る上で、中央銀行としては最も手の届きやすい領域であるように思える。住宅市場の金利感応度が低下しているとしても、MBSレートの引き下げは、モーゲージ金利の低下を通じて住宅価格を下支えするし、underwaterやscoringの深刻な悪化に見舞われている人々以外には、借り換えを通じた債務負担の軽減をもたらしうる。

もっとも、Bernanke議長がJacksonHoleで強調したように、今や、中央銀行による金利政策のみで政策効果が発揮する領域は狭まっている。住宅問題に関しても、GSEの活用の仕方やForeclosureされた住宅ストックの処理の方策など、米国政府がきちんと対応すべき課題はまだまだ残っているように見える。

このページを見た人はこんなページも見ています