1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 研究員の時事解説
  4. 井上哲也のReview on Central Banking
  5. 10年後への手紙

10年後への手紙

2011年08月26日

金融経済状況の評価

  • 「経済は、我々の標準シナリオの下限を外れ始めている可能性があるとの見方を申し上げた」(注1)。
  • 「向こう1年間あるいは来年度を展望すると先程述べたような経済情勢からして潜在成長率を上回るような成長は期待し難くなっている」(注2)。
  • 「このところ株安が進んだこともあって、景況感は一段と厳しくなってきている。企業収益の見通しは下方修正されてきており、雇用・所得の伸び悩みが懸念される状況になってきたように思う」(注3)。
  • 「一部の金融機関の調達コストに含まれるリスク・プレミアムに増大傾向がみられること、・・・クレジットラインを絞る動きの兆候のようなものもみえなくもないといったことが気に掛かる」(注4)。

金融政策と財政政策の関係

  • 「金融政策に対する期待の高まりの背景には、財政については政府債務残高が限界であるために、もはや財政にできることはないといった暗黙の前提があるように思われる。しかし、財政については、規模は増やさずに支出の構成を抜本的に見直すことができるはずである」(注5)。
  • 「内外の中央銀行の歴史に例をみないような思い切った金融緩和が強く求められているように思われる。もしそうであるならば、私は政府においても同じく前例のないような思い切った財政政策の見直し、雇用政策、金融システム対策を強く期待したいと思う」(注6)。
  • 「今回の措置が国債の買い支えとか財政ファイナンスを目的とするものないことは当然であるが、そうした誤解をされないためにも明確な歯止めを用意しておくことが不可欠だと思う」(注7)。

金融政策のオプションとコミットメント

  • 「考えられる手段の一つは金利水準の引き下げである。・・・第二の政策手段は従来の金利をターゲットとした枠組みを超えて、マネタリーベースや・・・当座預金の供給額をターゲットに資金供給を増やすことだと思う。・・・第三の政策手段はいわゆる時間軸効果の導入である。・・・第四の政策手段は長期国債の買切オペの増額である」(注8)。
  • 「将来の金融緩和政策へのコミットメントを量ないし金利で行っていくことが望ましいと思う。・・・ゼロ金利で約束した方が、量で約束するよりもコミットメントの強さは強いと思う。なぜかと言えば、量で約束しても将来ゼロ金利になる保証はない訳である」(注9)。
  • 「(リザーブ・ターゲティングは)これまでの金利を中心として政策を組み立ててきた思想からはジャンプがあると思うことである。そう簡単に量に移行すると言ってしまって本当にいいのだろうかと思う」(注10)。
  • 「・・・どういう対応があるかと考えてみると、一つは・・・リザーブ・ターゲットでいく方法である。二番目は、金利をゼロにするためにリザーブを増やすというこれまでの調節方式をむしろはっきり出した上で・・・未達になれば長期国債の買い入れ増額も考えるといった言い方である。三番目は純粋にゼロ金利プラス時間軸でいくというものである」(注11)

「量的緩和」の効果とリスク

  • 「マネタリーベースを伸ばした時には、金利へのインパクトよりは恐らくポートフォリオ・リバランシング、あるいは資産価格、株や為替を通じて・・・設備投資に効いてくるような結果が出ている訳である」(注12)。
  • 「量的緩和の場合には・・・、物価は貨幣的現象であるというようなことを前提に、量の将来に亘るコミットをすることによって期待インフレ率を上昇させるという考え方が一番基本にあると思う。議論のされかたによっては金融機関のポートフォリオのリバランスとか浸み出し効果も狙っているような議論もある訳である」(注13)。
  • 「実質ゼロ金利になった後に銀行システムにリザーブを追加的に供給し続けていくことにどれ位具体的な意味があるのかについて、私は余り積極的な意味を認め難いと思うし、リザーブ・ターゲティングに転換することによって、追加的な緩和の余地が大いに生まれてくるような、ある種のイリュージョンを与えることにもなりかねないと思う」(注14)。
  • 「国債買いオペの増額に意味があるとすると何か少なくとも三つあると思う。一つは・・・これによってマネーの量を増やすことができる。二番目に金利等への影響で、将来の短期金利自体、あるいは将来の短期金利に対する予想値に国債買いオペが影響を与えていくことである。・・・三番目に国債需給、あるいはリスク・プレミアムといったところへ影響して、国債価格、金利に影響を与えるルートがあるかと思う」(注15)。
  • 「(市場や世の中は)額でもう少し増やせば何か違うことが起こるだろうと言ってくる訳であるが、それはやってみないと分からないということだから全面否定できない。そうするともっともっとということになる」(注16)。

解説

読者の皆様には改めて説明する必要もないことかもしれないが、本稿は、全て、日本銀行がいわゆる「量的緩和」の開始を決定した政策委員会・金融政策決定会合の議事録(2001年3月19日)からの引用によって構成した。もちろん、国内外の金融経済環境が異なるので、安易に「日本化」論を主張すべきではないが、それでも、FRBがこれから金融政策をどのように運営するかを見通していく上で、傾聴すべき貴重な識見が含まれることを改めて感じた。なお、各発言の具体的な出所は以下の通りである。

1. 藤原副総裁(議事録37ページの発言のうち第1行)
2. 藤原副総裁(議事録38ページの発言のうち第24行)
3. 田谷委員(議事録39ページの発言のうち第1行)
4. 植田委員(議事録42ページの発言のうち第22行)
5. 篠塚委員(議事録45ページの発言のうち第14行)
6. 篠塚委員(議事録45ページの発言のうち第26行)
7. 速水総裁(議事録81ページの発言のうち第5行)
8. 藤原副総裁(議事録62ページの発言のうち第5行)
9. 植田委員(議事録66ページの発言のうち第1行)
10. 山口副総裁(議事録97ページの発言のうち第3行)
11. 植田委員(議事録122ページの発言のうち第5行)
12. 中原委員(議事録72ページの発言のうち第18行)
13. 武富委員(議事録75ページの発言のうち第12行)
14. 山口副総裁(議事録77ページの発言のうち第19行)
15. 植田委員(議事録83ページの発言のうち第12行)
16. 武富委員(議事録106ページの発言のうち第9行)

このページを見た人はこんなページも見ています