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世界的な取引所再編と東証・大証の統合協議

2011年04月27日

未曾有の被害をもたらした東日本大震災が発生した前日の3月10日、『日本経済新聞』が、1面トップで「東証・大証統合協議へ」と報じた。日本最大の株式市場運営者である東京証券取引所と日経平均株価指数のデリバティブ取引を経営の柱とし、2010年には新興企業向け取引所ジャスダックを合併した大阪証券取引所が、経営統合を視野に入れた協議を進めるというのである。

いま世界では有力取引所間の合従連衡の動きが盛んである。とりわけ、2011年2月には、ロンドン証券取引所(LSE)とトロント証券取引所などを運営するカナダのTMXグループ、世界最大の株式取引所であるニューヨーク証券取引所(NYSE)を運営するNYSEユーロネクストとドイツ取引所がそれぞれ経営統合合意を発表し、市場の注目を集めた。伝統的な取引所と競合関係にある新興の電子取引システム(日本ではPTSと呼ぶ)の分野でも、米国の BATSが欧州のチャイエックス・ヨーロッパとの統合を発表し、取引規模でLSEを上回る欧州最大の株式取引プラットフォームを形成しようとしている。

こうした取引所再編の背景には、急速に進む証券取引の電子化、グローバル化という大きな流れがある。従来、一国(あるいは一地域)の市場運営を独占する半ば公的な主体と考えられてきた取引所が、取引所間、あるいは電子取引システムとの厳しい競争にさらされ、生き残りを賭けてグローバル化やデリバティブ市場の運営や清算業務といった新たなビジネス分野への進出を図っているのである。

これまで日本の取引所は、国際的な取引所再編からは一歩も二歩も距離を置いてきた。国内においても、1990年代後半の「金融ビッグバン」によって、かつての取引所による地域独占の制度が放棄され、PTSの運営が認められるなど、市場間競争を促す流れが強まっている。とはいえ、株式の取引では東証が9割以上のシェアを占め、取引所会社の株式保有規制によって海外の取引所等が東証や大証を買収するといった可能性もあり得ないという環境下で、各取引所の競争に対する危機意識は、それほど強いものとは言えなかった。

しかし、EU経済統合の進む欧州に端を発し、大西洋を越えて米国にも拡がったクロスボーダーの取引所再編という動きは、アジア市場にも確実に及びつつある。2010年10月に発表されたシンガポール取引所(SGX)とオーストラリア取引所(ASX)の経営統合計画は、「国益を害する」とみたオーストラリア政府の認可拒否にあって白紙に戻されたが、それでアジアの取引所が従来の勢力図を維持し続けると決まったわけではない。

国内現物株式の取引で圧倒的なシェアを有する東証とデリバティブ取引では国際的にも一目置かれる存在で、既に上場会社になっている大証との組み合わせは、競争力ある取引所会社の構築という観点からは、高く評価されるべきものと言えるだろう。将来のシステム統合や現物とデリバティブ取引における清算システム統一などによるコスト削減効果が期待される。また、自主規制業務が一本化されることは、業務の効率化だけでなく、専門性の向上を通じて規制の実効性を高めることにもつながるだろう。国内の最有力取引所同士が統合すれば、商品取引所や金融先物取引所、地方の証券取引所が経営のあり方を再検討するきっかけになることも予想される。

もちろん、東証と大証の統合には懸念材料もある。最大の問題は、統合された取引所が国内ではほぼ独占企業となることで、経営規律が弛緩し、効率性とサービスの質の低下につながることである。もっとも、この点については、上場会社としてのガバナンスが働き、国際的な競争圧力が意識されれば、大きな問題ではないとみることもできる。

今後の注目点は、東証がこれまで唱えてきた自らの株式上場という方針を見直すかどうかである。東証と大証の経営統合を実現するには、既に上場会社となっている大証が、株式交換や現金買収によって非上場会社である東証を形式上買収することが早道である。これは統合会社の経営をどちらが主導するかといった問題とは無関係であり、買収と同時に大証が持株会社形態に移行し、両社が新しい持株会社の傘下にぶら下がるといったことも技術的には容易だろう。

これに対して、東証が自らの株式上場を先行させるという考え方をとると、経営統合は早くても二年先、三年先ともなりかねない。しかも、統合をめぐる報道が行われてしまった中で上場する東証の株価を基礎に統合比率を算定すれば、大証の取締役会や株主を納得させることが難しくなるだろう。

震災後の復興を「オール・ジャパン」で進めるために、あるいは地盤沈下が指摘される日本の証券市場の地位浮上を確実なものとするために、東証と大証の統合は是非とも実現させるべきだろう。経営統合協議のゆくえが大いに注目される。

Writer’s Profile

大崎貞和

大崎貞和Sadakazu Osaki

未来創発センター
フェロー
専門:証券市場論

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