1. HOME
  2. ナレッジ&インサイト
  3. 小粥研究理事の視点
  4. 2018年
  5. ベリー・ベリー・スモールワールドにおけるマーケティング

ベリー・ベリー・スモールワールドにおけるマーケティング

2018年10月29日

株式取引のスマホアプリで注目されている米国のRobinhoodという新興企業の名前を聞いたことがあるだろうか。取引手数料の無料化と使い勝手の良いアプリが米国の若手層に受け、口座数を伸ばしているのだが、その伸び率は驚異的である。2017年5月に200万口座を突破して注目を浴びたかと思えば、2018年5月には400万、8月には500万、そして10月には600万口座を超えたと報告されている。もちろん、顧客は若年層が対象なので残高ベースではまだまだの水準ではあるが、口座数だけで言えば日本の最大手証券クラスに匹敵する。創業から4年程度でこの水準に達したということ自体、目を見張るものがあるが、口座数の指数関数的な伸びからすれば現水準はほんの通過点に過ぎない。これまでのところ1年で倍増のペースに乗っているので来年の5月ごろには800万口座に達する計算になる。


これだけの口座獲得の為には今流行のデジタルマーケティングにかなりの費用を投じたのだろうと想像されるが、驚くべきことに、この企業はWeb等を通じたマーケティングにほとんどコストをかけていないと説明している。つまり口座獲得のほとんどが顧客を中心にした口コミ効果によるということになる。インターネットやスマホの普及を背景にSNSが拡大し、個人間ネットワークは10年前と比較しても格段に強化されていると予想されるところであるが、Robinhoodの口座数の伸びはその威力を数字で実感させてくれる。いわゆる「スモール・ワールド現象」を説明する際に「人を伝って世界中の人につながるには平均6人を介せば十分である」という事実がよく引き合いに出されるが、これはかなり古い時代の実験がベースになっている。インターネット時代の今、同じことをやったら仲介の人数はぐっと減って、「ベリー・ベリー・スモール・ワールド」になっているのだろう。


このような、顧客による口コミを重視して、マーケティング費用をかけない戦略をとっている企業としてZapposという会社も有名である。米国のオンラインの靴屋だが、顧客サポートの手厚さが有名で、顧客1人に10時間もかけて対応したり、自社に顧客が要望する靴がなければ他社で探して提案したり、顧客の母親が亡くなった時に花をおくったりと、そのエピソードには枚挙に暇がない。この会社のCEOも、マーケティング費用を無駄にかけず、その分のコストを顧客サポートの充実に当てれば、顧客の口コミで十分なマーケティング効果が得られるという算段に基づいている、と語っている。


かくいう私本人もこれでこの2社のマーケティングに手を貸してしまったことになる。顧客目線で伝えたいことを持っている会社にとって、マーケティング費用は不要になったと言える。

Writer’s Profile

小粥泰樹Yasuki Okai

金融ITイノベーション事業本部 副本部長
研究理事
小粥研究理事の視点 掲載中

この執筆者の他の記事

小粥泰樹の他の記事一覧

注目ワード : FinTech(フィンテック)

このページを見た人はこんなページも見ています