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「デジタル化は○○である」という問い

2018年08月17日

デジタル化(Digitalization)とは何か?あるいは何の為にやるのか?というデジタル化の目的に関する質問を投げられたらどのような答え方をするだろうか。虚を突かれて反応に困るのではないだろうか。経験豊富なコンサルタントであれば「それは質問が悪い。デジタル化の目的の前にビジネスの目的がなければならない。それに拠ってデジタル化の意味も異なるから。」と言うところだろう。また、シニカルな回答者であれば「そんなものは競争力強化に決まっているだろう。他に答えようもない。」と言うかもしれない。しかし、ここでは敢えてビジネス側の目的を特定せずに、冒頭の質問を設定してみたい。また、シニカルな回答者に対しては「ではどのように競争力強化をするということですか?」と少し掘り下げた質問をぶつけたい。


想定される回答としては、コスト削減の為とか、顧客経験(CX)を向上させる為とか、業務品質を上げる為といったところであろうか。他にもあるかも知れないが、これらは新聞記事やセミナーでデジタル化の目的として言及される代表的なフレーズである。しかし、これでは冒頭の質問に対して3つもの回答を示したことになる。そんなに幾つもの回答をしていいのであれば、そもそもこの問題は面白くもなんともない。ここは、やはり「デジタル化の目的は○○である。」か「デジタル化は○○によって競争力を強化することである。」の○○に入る言葉を見つけたい。


実はこの冒頭の質問に対しては自分なりの回答を用意していたのであるが、先月、ITコンサルティング企業の経営者と話をしていたら、「Digitalization is timeliness.」(「デジタル化はタイムリーさを追求することである」)という言葉をたまたま耳にした。なかなか含蓄のある表現である。思えば、コスト削減やCX向上や業務品質改善といった事は何もデジタル化がブームになって始めて可能になったことではない。ずっと昔から普遍的にある課題である。これらがデジタル化でどのような影響を受けるのかを考えた場合、「タイムリーさ」という言葉はポイントを言い当てている気がするのである。


例えば、コスト削減を例にとってみよう。自社サーバーをクラウド環境へ移してITの基盤コストを下げるのもこのデジタル化における一つのトレンドである。確かに絶対的なコスト水準も下がっているかもしれないが、クラウド移行というのは本質的にはコストの変動費化であり、必要に応じて利用料を支払うということである。いかにもタイムリーという言葉が似合う。RPA(Robotic Process Automation)を適用して人件費削減を実施したという報告も良く聞く。金融機関の事務センターにおける伝票確認業務のように純粋に人件費削減効果が期待できるケースもあるが、本質的にはRPAは少量多品種の業務を自動化することで業務品質を上げる手段として有効である。人によるチェックが不可欠なために中断していた二つの業務を繋ぐという意味でSTP(Straight Through Processing)の実現を通じた業務品質改善になっている。STPもタイムリーさの追求の例だと言って、それほど無理は無いであろう。では、CX向上はどうだろう。スマホ上のアプリを提供して顧客にとって24時間365日いつでもサービスにアクセスできるようにするというのはいかにもタイムリーという言葉に相応しい。このようにコスト削減とかCX向上とか業務品質改善などをデジタル化の目標として掲げたとしても、その中身を少し掘り下げてみると、それぞれタイムリーさを向上させることで実現しているという特徴がある。これら以外にも最近注目を集めているのが機械学習とかアナリティックスの強化だが、CRMを例にとっても、また、KYCを例にとっても、分析力強化がタイムリーな意思決定を支援するものであることは言うまでもない。「デジタル化はタイムリーさの追求である」、という先のフレーズはシンプルで的を射ている感じがするだろう。


もともと冒頭の問いに用意していた回答は、「デジタル化とは環境適応力向上を目的としている」、というものであった。企業から見た環境とは顧客や競合他社の状況、そして市況などを指している。これら環境の変化に対してその状況を素早く察知し、分析し、素早く対応する。このことが、「環境適応力が高い」ということであり、昨今のデジタル化はこの環境適応力を高める為にあると言いたかったのである。


しかし、この環境適応力の説明の中に「素早く」という言葉が幾度も出てくるように、タイムリーさと環境適応力は密接な関係がある。企業の様々な機能においてタイムリーさを実現した結果、全体として企業の環境適応力が高まる、という関係であり、同じことを違う視点で表現しただけ、という見方もできる。


ただし、「デジタル化はタイムリーさの追求である」という表現と比較すると、環境適応力という言葉は分かり難いことは認めざるを得ない。ここは、素直に「デジタル化はタイムリーさの追求である」に軍配を上げたいと思う。


Writer’s Profile

小粥泰樹Yasuki Okai

金融ITイノベーション事業本部 副本部長
研究理事
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注目ワード : RPA(Robotic Process Automation)

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