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ラップビジネスは本当に順調か

2018年08月07日

ラップ残高は4年程前から急激に拡大し2018年3月末では8兆円の規模に近づいている(投資顧問協会調べ)。足元の1年間(2017年3月末から2018年3月末まで)でも、口座件数が約27%、残高が22%の伸びを見せており、ビジネス的に順風満帆のように見える。しかし、この直近1年とその前とでは様相は大きく異なっており、注意が必要である。これまでラップビジネスを牽引してきた大手金融機関の内、野村證券、大和証券、三井住友信託銀行を合わせた口座件数が2017年3月末から2018年3月末までに3%あまりしか伸びていないのである。一方で、三井住友銀行との積極的な連携でSMBC日興証券が口座数を26%も伸ばしたことは特筆に値するが、それ以上に全体としての口座数の伸びに貢献したのはロボアドの存在である。たった1年の間にロボアド3社(ウェルスナビ、お金のデザイン、楽天証券)で10万口座以上の増加を記録し、 4大手の一角を占める三井住友信託銀行の口座数を抜き去ってしまった。ただし、これらロボアドの1口座当たり残高は大手の10分の1程度の水準であり、残高への貢献は現時点では小さい。結局、昨年度1年間でラップ残高が増加した要因は、主として相場の影響によるところが大きかったのである。


大手金融機関のラップ口座数の伸びに陰りが見え始めたことの原因は何なのか。本来、長期投資の手段としてラップを考えるのであれば、銀行等の定期性預金だけで450兆円にも上るなか、それを取り込める可能性のあるラップの伸び代はまだまだ大きいはずである。それにも関わらず、大手金融機関のラップ口座数が伸び悩んできている事実は、ラップに投資される資金の多くはそのような長期投資を目的としたコア資金ではなく、相場動向によって株式や投信を売買してリターンを狙うサテライト資金が原資になっている可能性を示唆している。金融庁の地銀を対象とした投信販売実態調査でも明らかになったように、投信自体も長期投資の対象として根付いているとは言い難く、コア資金は未だ預金から動く気配を見せない。日本市場に長期投資が根付くかどうかという観点で見た場合にラップや投信への期待は大きく、コア資金取り込みに向けた活動の本格化が期待されるところである。


コア資金を取り込むとは即ち長期投資をベースにして顧客アプローチを行うことを意味する。これが実際には金融機関にとって容易なことではない。営業員のスキルセットやインセンティブ制度、ローテーションを伴う人事制度に加え、投信の手数料水準など金融商品設計まで含めてすべてが現在の販売主導型ビジネスに合わせて調整されており、相互に強化し合う一セットの政策として定着している。顧客の長期投資に対応するためには、これらを個別にではなく全体として組み替える必要がある。しかも、長期投資の世界と短期投資の世界では想像以上に基本的な考え方の変更が求められる。例えば短期投資であれば気にしなくて済んだベータ投資に伴う期待リターンも投資判断にとって重要な要素になってくる。また、短期投資であれば普通に投資対象となるアクティブ運用の投信も、長期投資の中ではその意味を再定義しなければならなくなる。大手金融機関の経営層の中で長期投資資金へのアクセスの重要性を十分に理解した発言が散見される一方で、長期投資ビジネスが未だ大きな流れになっていないのは、その本質的な難しさを示しているとも言える。


一方、長期投資の拡大に向けてロボアドに期待する声もある。実際、口座数で言えば十分に大手の減速を補う効果は出ている。しかし、ロボアドが先行している米国に目をやると、完全無人型のロボアドは成長性に陰りが見え始めており、オンラインあるいは対面による「人」のサービスを付加する動きが顕著になってきている。例えば、Vanguardでは無人型のロボアドに加えて店舗でのアドバイスも予約制で可能としており、Charles Schwabではオンラインでアドバイスの提供を受けることができる。日本で独立系の完全無人型サービスがどこまで顧客を伸ばすことができるかを見極めるには、今しばらく様子を見る必要がある。米国のようにロボットと人のハイブリッド型が求められてくるとすれば、オンライン証券会社や大手金融機関など既存プレーヤーのサービスの一部としてロボアドが提供される機会が増えてくるかもしれない。先の投資顧問協会の統計を詳しく見てみると、大手金融機関によるラップ口座獲得数の減速の裏には、口座当たりの残高拡大の動きが見てとれる。大手金融機関が採算重視で大口顧客に絞り込んでいるのだとしたら、小口の不採算層をロボアド等でカバーする戦略が有効な手段としてクローズアップされてくる。


日本のラップビジネスはここまで量的には順調に拡大してきたように見えるが、質的には今まさに長期投資の手段として定着するか否かの分岐点に差し掛かっており、正念場を迎えていると言える。

Writer’s Profile

小粥泰樹Yasuki Okai

金融ITイノベーション事業本部 副本部長
研究理事
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