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金融庁の共通KPIを用いた分析から思うこと

2018年07月19日

金融庁が2018年6月29日付で「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIを用いた分析」を公表した。販売会社別に顧客のパフォーマンスの分布状況や顧客による投資信託の平均保有期間などが集計されており、販売会社によってそれらに大きなバラつきがある様子が示されている。主要行9行と地域金融機関20行の計29行を対象とした2018年3月末基準での分析であり、全体を合算したベースでは、約半数に相当する46%の顧客が購買時と比較して損をしていると報告されている。また、合わせて顧客の平均保有期間と平均リターンがポジティブに相関している図も示されていることから、販売会社が推奨したか否かは別にしても、顧客の短期的な売買がパフォーマンスの低下に繋がっている可能性を示唆している。


このように販売会社毎に顧客のパフォーマンスの分布が示されれば、際立って悪いところは何らかのサービスの改善を余儀なくされ、その結果として販売会社が顧客本位の業務運営を心がけるようになるだろうという意味で、この取り組み自体には基本的に賛成である。しかし、顧客にとって良いサービスとは何かについての議論と離れてKPIだけが一人歩きしないかには十分な注意が必要であると思う。


例えば、今回のKPIでは基準日時点で顧客が保有している投信やファンドラップを対象として運用損益を計算することになっているが、基準日よりも以前に売却されていれば報告の対象とはならない。KPIを重視するあまり、含み損のある客に損切りを進めたり、含み益のある客の利益確定を遅らせたりと、販売会社の営業マンの行動にバイアスがかかるようなことがあっては問題である。また、行動ファイナンス的な観点からすると、含み損が出ている顧客ほど損切りが難しいという傾向が示されている。このことが基準日における顧客の損益分布において損失が多くなる方向にバイアスを持たないと言えるのかどうか、確認が必要であろう。これらはKPIの数字自体への懸念だが、別途、KPIの数字を解釈する部分についても慎重な姿勢が必要であろう。そもそも46%の顧客が損をしていたという事実は、どれほど問題であるというのか判断の基準が必要と思われる。投信のように価格が相場によって変動する金融商品の場合、保有期間が短期であればあるほど含み損の顧客の割合は大きくなる傾向がある。また、5年程度の長期間保有したとしてもパフォーマンスは相場次第という部分があり、一度限りの相場付きで議論するのは難しく、本来は平均としてのパフォーマンスがどうなるかを慎重に議論しなければならないところである。


それから、顧客の資金の性格を一律なものとして分析することにも注意が必要である。今回の金融庁の分析は対象を銀行の顧客に絞っているので資金の性格としては比較的長期運用に適したものと仮定しているのかもしれない。しかし、銀行の顧客でも投信等を保有している顧客は相場動向に関心をもっている割合が高いと言われている。長期投資が個人に根付くことは「貯蓄から投資(資産形成)へ」を考える上で非常に重要なことであると思う一方で、だからと言って、長期投資を欲していない顧客にまで一律に長期投資を奨めたりすることにならないように、顧客の資産運用の目的を明確化することの重要性を再確認する必要があると思う。


これは、ゴール(目的)ベース資産管理の実践を経ずに単に長期投資が良いと言ってみたところで結局は顧客本位には近づけないのではないかということである。ゴールベース資産管理というと、米国ウェルスマネジメント業界で成功したビジネスモデルとして、NRIアメリカの金融リサーチヘッドである吉永研究員が長年にわたって日本で普及活動を続けている。一部の開明的な経営者には受け入れられつつあるものの、未だ、日本での理解者の数は限定的と言っていい。「ゴールなんて顧客に聞いても教えてくれるわけない」とか、「そんなものではビジネスにならない」という反応が大半である。しかし、今、改めて長期投資の意義を顧客と合意しなければならない局面に立った時、営業マンにとってゴールベース資産管理の考え方は大きな助けになるのではないかと思う。


今回の金融庁による投信販売の共通KPI導入の議論が、KPIの一人歩きを超えて、より本質的なゴールベース資産管理ビジネスの普及へと繋がるきっかけになることを期待する。

Writer’s Profile

小粥泰樹Yasuki Okai

金融ITイノベーション事業本部 副本部長
研究理事
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