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AI拡大に伴い見直される「人」の価値

2018年06月18日

AIの金融ビジネスへの適用が進んでいる。コールセンターのオペレーターを後方支援したり、オンラインサービス上の顧客行動を分析したり、新規口座開設時のKYC(Know Your Customer)チェックを行ったりと、最近の事例については枚挙にいとまがないほどだ。そして、その活用の場が拡大していくにつれ、人の業務がAIに代替されていくことに対して懸念の声も多く聞かれるようになっている。 AIが人の能力を追い越すとされる2045年のシンギュラリティ論を信じるかどうかは別としても、 AIに対する脅威論は今後更に大きくなっていくことだろう。


一方、デジタル化の進展に伴って、改めて人にしかできないこと、即ち人の価値を再評価する機会も増えている。様々な機能を自動化して効率化しようという検討の過程で、人でなければならないものは何かについて議論することが避けられなくなっているからである。


例えば富裕層向けの金融アドバイスの分野では対面サービスが基本である。恐らくアドバイスを提供する営業マンの仕事は様々な金融業務の中で機械化の優先順位は最も低いものの一つであろう。それでも、最近では営業マンの活動を効率化する為にCRMが導入されたり、電話の代わりにメールが多用されたり、一部の業務をオンライン化して顧客のセルフに切り替えたりという動きが広がりつつある。では、どんどん自動化が進んでいくのかというとそうではない。対面での顧客ミーティングは一定頻度こなすことを基本に、その中で顧客ニーズの修正や顧客の不安解消に対応する、というのは人でなければなかなか務まらないだろう。富裕層に特有の複雑な節税対策や不動産や絵画等金融資産以外の資産管理サポートについては自動化がかなり難しいことは容易に理解されよう。それだけでなく金融資産の運用管理に関しても人の対応は不可欠である。ポートフォリオの資産配分を決定することだけが金融アドバイスのサービスではなく、資産配分が決まって運用が始まった後にも相場変動や様々なニュースによって顧客は心休まらない状態が続く。不安を取り除いて本来の目的に合致した運用を継続させることが金融アドバイスの本質的な価値であるとした時、その中心に人が存在しなければならない状況はまだ暫らく変わらないであろう。


確かにフィンテックブームに乗って新興企業のロボアドが一定の顧客を獲得したとされるが、その顧客層は心理的な支えよりもデジタルの利便性を重視するミレニアル世代が中心である。しかも、その若年層を対象としたロボアドに関しても完全自動化をベースにしたサービスの伸び悩みが目立ち始め、最近は電話でアドバイスがもらえるサービスと組み合わせるなど人と機械の「ハイブリッド化」が顕著になってきた。金融リテラシーの高い一部の顧客だけでなく、広く顧客に受け入れられるサービスを目指すのであれば、顧客の不安を取り除いたり、深い信頼を獲得したり、共感を得るという部分に関して顧客との直接的なコミュニケーションは不可欠ということである。


どの部分は人が対応しなければならないか、多くの場合、直感的に分かると思う人も多いだろう。そうした分野は人に対応させるとしても、人というのは非常にコストのかかる経営資源なので効率的な活用をしたくなる。そして、人の価値を中心に置きながら効率化を目指そうとすれば人の価値を機械で如何にレバレッジを掛けるかという競争になる。この時、人と機械の組み合わせ方は様々な選択肢が考えられ、単純に他社の真似をすればいいというものではなく、各社のサービスの付加価値を決めるコア要素になっている可能性がある。


金融アドバイスの分野に限らず、これまで自動化が完了した業務分野も含めて、改めて人の価値を見直し、そのレバレッジの掛け方を考えてみることがデジタル化の中に自らの付加価値を見つける近道なのではないかと感じる。

Writer’s Profile

小粥泰樹Yasuki Okai

金融ITイノベーション事業本部 副本部長
研究理事

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