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金融デジタル化の先にある大変革

2018年06月14日

最近は日本でフィンテックという言葉をあまり聞かなくなってきた。技術系新興企業が既存の金融システムに破壊的改革をもたらすという当初の期待感が、大手銀行を中心にデジタル化が進んでいくという見通しに変わってきたことを反映しているのだろう。ところで金融分野におけるデジタル化について、近い将来業界構造が一変するような大きな変革に繋がるものとして見ている人はどのくらいいるだろうか。確かにRPAで業務を自動化する話とか、ブロックチェーン技術やAIのPOCを実施する話だとか、スマホ対応アプリをリリースする話など、デジタル化の話題は今でも紙面を賑わせている。これらの対応を通じて銀行自体のサービスは良くなるかもしれない。しかし、大手金融機関によって発表されるデジタル戦略の多くがコスト削減を目的にしており、そこに業界の構造的な変化を嗅ぎ取ることは難しい。そのせいか、現在の様々なデジタル化対応が将来大きなインパクトを持つこととして認識されることは少ない。


これに対して欧米の銀行のデジタル戦略の中には将来の変化を期待させる言葉が豊富にちりばめられている。欧米企業の経営者が常に変化への貢献を期待されているという事情もあろうが、ビジネス戦略と一体化したデジタル戦略が経営者によって語られ本気度を感じ取ることができるため、そのような人や言葉の周りに徐々に一つの共通認識のようなものが育ってくる。その点が日本と欧米におけるデジタル化への期待感の違いを生んでいるのかもしれない。


例えば、ゴールドマン・サックスのここ数年のデジタル戦略を追ってみると、新興企業への投資とかリテールバンキングへの参入とか他社同様に話題は豊富だが、他と比較して特に強調されて映るのは、データ分析やリスク管理システムを強化して各種投資案件の意思決定にとことん迅速さを追求している姿である。「意思決定の迅速化」という目標は、昨今の不確実の高いビジネス環境下で企業が如何に競争力を高めるかという点でも、また、投資銀行ビジネスでトップを走る同社が更に強みを強化するという点でも戦略的な整合性に納得感がある。今後、多くの企業が目指すべき強い企業の将来像として、高度に外部環境に適応した企業という一つの「型」を提示しているように見える。


モルガン・スタンレーのデジタル戦略も示唆に富む。同社はウェルス・マネジメント・ビジネス(WM)を強化するためのデジタル戦略を2017年夏に公表して業界の注目を浴びた。WMは基本的に人中心のビジネスであり、マスリテール向けのビジネスと比較するとデジタル化という点では遅れているとみなされていた。そこに積極的に機械学習や分析を持ち込んで営業マンの能力を最大限引き上げるプラットフォームを構築しようとしている。従来から営業マンを支援するセールス・フォース・オートメーション(SFA)的な発想はあったが、同社のプラットフォームは機械学習の活用によって機能拡張され、近未来的に営業マンをサイボーグ化する発想に近づいている。企業の付加価値をこのようなプラットフォームに蓄積していくことの重要性とともに、人とマシンを融合したサービスのデザインこそが差別化要素として重視されてくる気がする。人とマシンのインターフェースを如何に工夫するかは単純に他社の真似をするということでは済まされない世界がやってきそうである。


また、マスリテール向けではJPモルガンやウェルス・ファーゴなどの大手銀行が口座開設/管理から支払、資金管理、資産運用など個人向けに統合的なデジタルサービスを提供しようとしている。オンラインバンキングの時と異なる点はデジタル化の方向が「日常」に向かっていることである。スマホの普及によって個人へのアクセスが24時間365日可能となる中、口座管理や資金決済などの金融ニーズに応えるだけでなく、消費傾向分析とか家計簿管理とか金融ニーズの周辺にある顧客の日常を取り込む方向に力を入れつつある。お金を貯めるとか投資に関心を持つとか、銀行として捕まえたい顧客ニーズは日常の中で突発的に発生するものであるとの認識に基づいている。この日常へのアクセスという発想はマスリテールだけでなく富裕層向けでも有効である。


以上、簡単に米銀のデジタル戦略から将来の変化を期待させるアイデアをピックアップしてみたが、これだけでも将来の金融機関の姿がかなり大きく変化することを示唆しているのではないか。そればかりか、その先には更に大きな変化が待ち構えている可能性がある。例えば、人の日常空間での陣取り合戦が始まれば、GoogleやAmazonなどのTechジャイアントと呼ばれる大手IT企業の影響が自ずと大きくなってくるだろう。ペイメント関連で既に始まっているようにTechジャイアント自身が金融ビジネスを手がけるケースもあるだろうが、膨大なデータと分析力をバックにプラットフォーム提供者として参入してくる場合でも金融業界の競争環境は一変するだろう。実際にはそこまでの変化はないのかも知れないが、欧米各社のデジタル戦略を眺めていて大きな業界変革が比較的自然に発想されてくるのは、そのベースに欧米銀行間の激しい競争環境が存在している事実があり、その中での本気のデジタル化が健在化しているためであろう。


日本ではまだ、デジタル化の結果として業界全体が再編成されるかもしれない、というような切迫感のある議論は一部に留まっている。日本の金融業界が海外より更に厳しい収益環境にあることを思えば、デジタル化で何を目指すか、何が起こるかについてもう一段踏み込んで想像してみることが必要になっていると思う。


(参考文献)
・"Morgan Stanley 2017 U.S. Financials Conference", Naureen Hassan, Morgan Stanley (https://www.morganstanley.com/about-us-ir/pdf/Digital_Opportunity_20170613.pdf)
・"Bernstein Strategic Decisions Conference", Tim Sloan, Wells Fargo(https://www.wellsfargo.com/assets/pdf/about/investor-relations/presentations/2018/bernstein-conference.pdf)

Writer’s Profile

okai

小粥泰樹Yasuki Okai

金融ITイノベーション事業本部 副本部長
研究理事

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