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FRBのバーナンキ議長による記者会見- 資産買入れの評価

2013年03月21日

はじめに

今回のFOMCは経済見通しの定例見直しに当たるが、新たな見通しは、本年について成長率を若干引き下げた一方、失業率とインフレ率について若干の改善を織り込んだ程度で、注目を集める内容ではなかった。むしろ、記者会見では、資産買入れの運営に関する質問が多く示され、この点に対する関心の強さを示唆した。

そこで、本稿ではこの点にウエイトを置きながら、記者会見のポイントを検討することとしたい。

資産買入れの効果とコスト

今回の声明文が示しているように、FRBは米国経済が緩やかな回復基調にあるとみている。つまり、個人消費や設備投資が増加し、住宅市場は顕著に改善し、労働市場も改善が続いていると評価している。同時に、FRBは、現在の資産買入れ(米国債450億ドル/月、MBS400億ドル/月)について、政策措置の効果とコストを考慮して見直すことを示唆しているだけに、メディアや市場関係者が資産買入れの今後の運営に強い関心を示すのも自然なことである。

バーナンキ議長は、冒頭説明の中で、資産買入れを、短期的な経済活動のモメンタムを高め、持続可能な回復へ導くための手段として位置付けている点を再び確認した。また、記者の質問に対する回答も含めて、資産買入れが長期金利の抑制という所期の効果を発揮し、住宅市場を含む様々な経済活動をサポートしているとの評価を強調した。

一方、コストに関しては、冒頭説明も記者への回答も必ずしも明確ではなかった印象もある。ただ、この点に関しては、前回のFOMC議事要旨や先月末の議会への定例報告、今月初のバーナンキ議長自身による長期金利に関する講演(サンフランシスコ連銀コンファレンス)などを参照すれば、十分に推察可能である。

つまり、FRBが資産買い入れのコストとして念頭に置いているのは、(1)巨額の資金供給によるインフレ、(2)巨額の買入れに伴う市場機能への負担、(3)低金利の継続に伴う過剰なリスクテイク、の3点に纏めることができる。同様に巨額の国債買入れが行われている某国で意識されている「財政ファイナンスのリスク」が含まれていないことは大変興味深いが、本稿ではこの点には立ち入らない。

そこで各点を検討すると、(1)については、FRBはインフレ期待の安定を強調しているし、PCEコアインフレ率が今後3年間は2%近傍で推移するとみている以上、FOMCとして必ずしも深刻と考えている訳でないことが推察される。(2)については、昨年までのMEPの効果もあって、米国債の長期ゾーンにおけるFRBのシェアがストックでみて3割を超えるなど、既に実現している面もある。しかし、それは長期金利を抑制するという目的に必然的に伴う問題であり、少なくとも現時点では政策意図の実現がより重視されていると理解できる。また、現在の米国債買入れについては、MEPの前半とは異なって買入れ年限の分散も図られており、FRBとしては既に相応の配慮をしている面もある。

これらに比べれば、(3)には厄介な面もある。実際、記者からも株価が史上最高値近辺で推移していることをどう評価するかといった質問もあった。バーナンキ議長は、控え目な表現ながら、高水準の企業収益からは正当化されるし、実質価格でみると過熱感はないといった点を指摘した。しかし、長期金利が長期にわたって低位に維持されることの副作用は上の参照資料でも一様に指摘されているし、最終的には金融システムにストレスをかけるだけに、依然として金融危機後の規制強化を巡る議論が続く米国の環境を考えても、バーナンキ議長にとって避けたい問題であろう。

しかし、既に自明であろうが、この(3)も結局は(2)と同じく目的の裏返しという面があり、FRBが警告を発してしまうとポートフォリオ・リバランスも含む政策効果を自ら毀損することになりかねない。

バーナンキ議長は、記者会見の中では、(3)の問題を含む金融システムの安定維持に対しては、密接なモニタリングや金融機関の監督、マクロ・プルーデンスに関する措置の行使など、金融政策とは別な政策手段の活用が望ましい点を示唆している。こうした考え方自体は一定の合理性を持つが、政策のラグや説明責任、効果の不透明性といった面で、少なくとも現時点ではテストされていない政策であることは事実である。

資産買入れ見直しの条件

今回の記者会見では、さらに進んで、FRBが実際に資産買入れの見直しを行う際にはどのような要素を考慮するのかという点に関して比較的多くの質問が集中したほか、政策金利に関するフォワード・ガイダンスと同様に、経済指標に関する数値的な条件を事前に明確にすべきではないかとの指摘も聞かれた。

今回の冒頭説明の中では、資産買入れの運営を「労働市場の見通しに関する顕著な改善の達成」と関係づけると説明しただけに、「顕著な改善」が何を指すのかという疑問が湧くのは当然である。同時に、FRBがフォワード・ガイダンスを透明性向上として評価している以上、資産買入れに透明性を求めるのも自然な発想である。

しかし、バーナンキ議長は、労働市場の要素として、失業率のみでなく雇用者数の変化や失業保険受給者数、労働参加率など幅広い指標をみることが必要と示唆したものの、具体的にリストアップすることを避けたほか、それらがどの程度変化すれば資産買入れを見直すかを明らかにすることは困難であるとした。その理由については、結局のところ、前節でみたような資産買入れの効果やコストについてFOMC内でも意見が分かれ、かつそれらを定量的に推計することが難しい点を挙げた。

このようなFRBのスタンスは従来から変わっていないし、ゼロ金利の下での「非伝統的政策」の各手段が多かれ少なかれ抱えている問題であるだけに、FRBのスタンスが曖昧であること自体を批判するのはフェアとは言えない。また、バーナンキ議長も、定量的な効果の推計について様々な試みが行われており、その成果として、資産買入れについても具体的な条件を提示しうる状況が来る可能性も示唆している。

しかし、金融市場の視点に立てば、米国の労働市場が着実に改善していくに伴い、次第に、どのような形で資産買入れの見直しがあるのかという不透明性に囚われやすくなっていくことが考えられる。この点は、前節でみたように、資産買入れの一つの政策効果として、金融資産の価格が支えられてきた点を考えれば尚更にそうである。

FOMC内でのコンセンサス形成が容易でないことと、先行きの市場における潜在的な不安とを考え合わせると、少なくとも推測されることは、FRBによる資産買入れの見直しはファインチューニングではなく、もっと大雑把なものになるということではないだろうか。

Writer’s Profile

井上哲也Tetsuya Inoue

金融イノベーション研究部
主席研究員
専門:中央銀行、国際金融

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